肝炎とは~最新治療と気になる費用~
監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。
肝炎は肝臓の炎症を引き起こす病気で、細菌やウイルスなどの感染、アルコールや薬物の使用、過剰なストレスなどが原因となります。
肝炎の中でも特に日本で問題になっているのがB・C型肝炎というウイルス性の肝炎です。現在B型肝炎ウイルスのキャリア(ウイルス保持者)は約110万人、C型は90万人いるといわれています。
肝炎は放置していると、肝硬変や肝臓がんなどを引き起こすこともあり、適切な検査・治療を受けることが重要です。ここでは、医師監修のもと肝炎の種類や症状、また治療について詳しく解説していきます。
肝炎とは
肝炎とは、肝臓に炎症が起きる病気のことを指します。主にアルコールや薬物、細菌やウイルスなどが原因となり、肝臓の細胞が破壊され、肝臓の機能が次第に低下していきます。
肝臓は、人体における最も大きな臓器です。また肝臓は炎症が起きても自覚症状などがあらわれにくいことから「沈黙の臓器」とも呼ばれています。
まずは肝炎の種類や症状についてみていきましょう。
急性肝炎と慢性肝炎
肝炎は、大きく分けて「急性肝炎」と「慢性肝炎」の2種類に分類されます。
急性肝炎は、症状の進行が早く、肝臓の機能が一時的に低下することがありますが、通常は完治する病気です。
一方、慢性肝炎は、炎症が長期間(6ヶ月以上) 続くことによって肝臓の組織が損傷し、機能が低下する病気を指します。慢性肝炎は、長期にわたって進行し、肝硬変や肝臓がんなどの合併症を引き起こす可能性があります。
肝炎の種類
肝炎の種類は、炎症を起こしている原因によって主に以下の通り分類されます。
- ウイルス性肝炎(A型、B型、C型、D型、E型)
- 薬剤性肝炎
- 自己免疫性肝炎
- アルコール性肝炎
上記で挙げた肝炎は、それぞれ種類によって、感染経路や症状、治療法が異なります。
ウイルス性肝炎の主な感染経路として、A型、E型肝炎ウイルスは主に食べ物を介して感染し、B型、C型、D型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染します。中でもB型、C型肝炎ウイルスについては、感染すると慢性の肝臓病を引き起こす原因ともなります。
薬剤性肝炎は、薬剤やサプリメントの服用によって炎症が引き起こされる肝炎です。自己免疫性肝炎は、自分の免疫系が肝臓を攻撃してしまうことで炎症がおこります。アルコール性肝炎は、多量の飲酒を長期間続けることで炎症がおこる病気を指します。
このように、肝炎を引き起こす原因は多岐にわたります。症状が出るころには病気が進行している可能性があり、早期発見と適切な治療を受けることが大切です。
肝炎の症状
前述の通り、肝臓は炎症が起きても自覚症状があらわれにくい臓器です。そのため、肝炎に罹患していても無症状であることも多いですが、一般的に病状が進行すると以下のような症状があらわれます。
- 慢性的な疲労感
- 発熱
- 食欲不振
- 腹部不快感
- 吐き気
- 嘔吐
- 黄疸 など
上記の症状からも分かるように、肝炎の症状は一般的な風邪症状と似通っており、肝炎であることに気が付かないケースも少なくありません。このような症状が数か月にわたって続いていたり、また症状が悪化していくようであれば、早めに医療機関を受診しましょう。
肝炎の検査
肝炎の検査では主に、血液検査や腹部の超音波検査などが行われます。
健康診断などでは通常「AST」「ALT」「γ(ガンマ)-GTP」の3項目にて肝機能の状態をチェックします。いずれも血液検査によって結果が分かり、どれか1項目でも基準値から外れていた場合は「肝機能異常」と診断されます。
健康診断などで肝機能異常と診断された場合は、肝炎ウイルス検査や肝線維化マーカー検査、また超音波検査などを用いて、より詳しく肝臓の状態を調べます。肝炎ウイルス検査では、採血によりC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスの感染がないかどうかを調べます。
肝炎は自覚症状があらわれにくく、発見が遅れてしまうことも多いため、定期的に検査を受けて、早期発見・治療をすることが大切です。
肝炎の治療方法と治療費
肝炎の発見・治療が遅れると場合によっては重症化したり、最悪の場合命を落とすこともあります。ここでは、肝炎の治療について解説していきます。
急性肝炎の治療
急性肝炎(C型肝炎を除く)は、特別な治療をしなくても多くの場合、時間の経過と共に自然に治癒していきます。急性肝炎の治療では主に安静にすること、そして肝臓の負担を抑えるため低タンパクの食事が必要となります。
万が一急性肝炎が重症化、劇症化へ移行する場合には、副腎皮質ステロイド薬や抗ウイルス剤などの投与が行われます。
C型肝炎の治療
C型肝炎は約50~90%の症例で遷延化、慢性化するといわれています。C型肝炎の慢性化は肝硬変や肝臓がんの原因となることもあるため、適切な治療を受ける必要があります。
C型肝炎の治療には、主に抗ウイルス薬の服用とインターフェロンの注射があります。近年、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)という新しい抗ウイルス薬が登場したことにより、これまでインターフェロン治療で改善しなかった人も完治できる症例が増えてきました。
抗ウイルス薬は、ウイルスの型や既往歴、年齢などをふまえて適切な薬が選択されます。これらの治療は、非常に専門性の高い治療となるため、肝臓専門医による治療が必要となります。
肝炎の治療費
肝炎の治療、特に抗ウイルス薬を使用した治療は長期にわたることも多く、また薬価が高いものもあり、患者の負担が大きくなりやすいです。
そのため、厚生労働省は「肝炎治療特別促進事業」を行い、肝炎の治療にかかる費用の一部を都道府県にて負担する制度があります。
医療費助成の対象となる以下の治療のうち、保険適用となっているものに限ります。
- B型慢性活動性肝炎に対するインターフェロン治療
・インターフェロンあるいはペグインターフェロン単剤 - B型慢性肝疾患に対する核酸アナログ製剤治療
- C型慢性肝疾患の根治を目的としたインターフェロン治療
・インターフェロンあるいはペグインターフェロン単剤
・インターフェロンあるいはペグインターフェロン+リバビリン併用 - C型慢性肝疾患の根治を目的としたインターフェロンフリー治療
(参考:肝炎治療特別促進事業|厚生労働省 (mhlw.go.jp))
上記治療を行った場合の自己負担額は原則1万円(上位所得階層については2万円)となります。詳しくは、お住まいの都道府県の肝炎・肝疾患の担当課・係にお問合せください。
肝炎になったら気を付けること
ウイルス性肝炎(特にB型・C型肝炎)の場合、血液や唾液などを通して周囲の人へ感染させる恐れがあります。
ウイルス性肝炎と診断された場合は、歯ブラシやカミソリなど血液が付着する可能性があるものを家族と共有しないようにしましょう。またケガや鼻血などの出血があった場合には、できるだけ自分で手当てをする、もしくは手袋などの感染対策をしたうえで手当てをしてもらうことを心がけましょう。
ただしお風呂やトイレの共有などの日常生活においてウイルス性肝炎を感染させることはほとんどありません。周囲に感染させてしまうかも、と過度に不安になる必要になる必要はありませんが、ウイルス性肝炎は感染リスクがあるということはしっかりと頭に入れておくと良いでしょう。
まとめ
急性肝炎は時間の経過と共に自然治癒することも多いのですが、まれに重症化・劇症化に移行することがあります。またC型肝炎の多くは慢性化し、肝硬変や肝臓病の原因となることが分かっています。
肝炎は適切な治療を受けることで、完治もしくは症状をコントロールすることができる病気です。
気になる症状や不安なことがあれば、早めに医療機関を受診するようにしましょう。