【医師監修】大人になってから発症する食物アレルギーとは
監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。
近年、大人になってから食物アレルギーを発症する方が増加傾向にあるといわれています。その原因の一つとして、花粉症を患う方が増えたことにより、交差反応を起こしやすい野菜・果物アレルギーを発症する方が多いことが挙げられます。
ここでは、医師監修のもと大人の食物アレルギーの原因や症状、治療方法について詳しく解説していきます。
大人になってから食物アレルギーを発症することはある?
大人の食物アレルギーは主に以下の2種類あります。
- 乳幼児から患っているアレルギーが完治せずに継続している場合
- 大人になって突然発症する場合
「食物アレルギー」というと乳幼児が発症するものだというイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし近年大人になってから新たに特定の食品に対してのアレルギーを発症する方が増加傾向にあります。
大人の食物アレルギーの場合、軽度のアレルギー症状のみであることも多く、自身のアレルギーに気付いていない人も多くいるのが現状です。
乳幼児の食物アレルギーでは「卵・牛乳・小麦」が主要3大原因食物であるといわれています。しかし大人の食物アレルギーの場合、果物・野菜アレルギーが最も多く、次いで小麦・甲殻類・スパイス・ナッツ類などの食物アレルギーも多く報告されています。
食物アレルギーと花粉症の関係
大人の食物アレルギーにおける果物・野菜アレルギーの一因として、花粉症が深く関係していることが分かってきました。
これは「交差反応」といって、アレルゲンのタンパク質の構造が似ている別の物質に対してもアレルギー症状があらわれることがあるからです。例えば日本人に最も多いスギ花粉は、ナス科の食物(トマトなど)との交差反応があることが分かっています。
近年花粉症患者は年々増加しているため、今後さらに大人の食物アレルギー患者も増加していくことが懸念されます。
大人の食物アレルギーの症状
食物アレルギーの症状は身体のさまざまな部位にあらわれます。小児の食物アレルギーでは、皮膚症状(かゆみやじんましんなど)が多くみられますが、大人の場合「口腔アレルギー症候群(OAS)」が多いという特徴があります。
口腔アレルギー症候群(OAS)
口腔アレルギー症候群とは、主に口唇部・口腔内・咽頭粘膜部などに腫れやかゆみの症状が出ることをさします。
特定の食品を口にしたあとすぐ(およそ15分以内)に口周りに腫れやかゆみの症状があらわれた場合は、口腔アレルギー症候群である可能性が高いと考えられます。通常は時間の経過と共にこれらの症状は治まってきますが、まれにアナフィラキシーショックを起こす恐れもあるため注意が必要です。
特に花粉症との交差反応による食物アレルギーの場合、口腔アレルギー症候群を起こすことが多いといわれています。人によっては「なんとなくのどがイガイガする」程度の症状のみである場合もありますが、少しでも異変を感じたら、今後その食品は避けるようにしましょう。
食物依存性運動誘発アナフィラキシー
大人の食物アレルギーの症状としてもう一つ「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」というものがあります。主に学童期から成人に多く発症するアレルギー反応の一つです。アレルゲン物質を摂取し、何らかの運動をすることで血圧の低下や呼吸困難、意識消失などの重篤な症状を引き起こします。
これは食事を摂取しただけで症状が発生するのではなく、食後〜約2時間以内に運動することにより細胞が活発化し、アレルギー反応を引き起こします。原因となる食品は「小麦・えび・果物」などが多いといわれています。
食物依存性運動誘発アナフィラキシーの症状は非常に重篤で危険を伴うため、発症した場合は早急に救急車を呼ぶようにしましょう。
大人の食物アレルギーの原因
前述の通り大人の食物アレルギーの原因の一つに、花粉症との交差反応によるものがあることが分かっています。それ以外にも、大人の食物アレルギーの原因はさまざまであり特定が難しいケースも少なくありません。ここでは、原因となりうる3つの要因についてご紹介していきます。
不規則な生活習慣やストレス
睡眠不足や運動不足、偏食など不健康な状態が続いてしまうと免疫力が低下し、食物アレルギーを発症しやすくなるといわれています。これまで問題なく食べられていたものであっても、ストレスや疲れがたまっている時に食べたことで、突然食物アレルギーを発症することがあります。
同じ食品を食べ続ける
特定の食品を毎日のように食べ続けることで、食物アレルギーを発症することがあります。詳しいメカニズムはまだ明らかになっていませんが、毎日継続して摂取することで体内に蓄積され何かの拍子にアレルゲンへと変化するといわれています。
また食物アレルギーは口からの摂取だけでなく、皮膚や気道を通して発症することがあることも分かっています。特に化粧品や石鹸など毎日使用するものに含まれる食品の成分により、アレルギーを発症することがあるため注意が必要です。
糖分の過剰摂取
砂糖の取り過ぎはアレルギー発生に関与することが分かっています。糖分の過剰摂取に伴いビタミンやミネラルバランスが傾き栄養面が低下しやすくなること、また糖分を好む腸内細菌が増殖し腸内細菌バランスが崩れることなどが要因となりアレルギ—反応を引き起こすと考えられています。
大人の食物アレルギーの治療方法と費用
大人の食物アレルギーの治療方法では、まずは「原因物質の特定・除去」を行い、必要に応じて「薬物療法」が行われます。小児の食物アレルギーでは「食物負荷試験」というアレルゲンである食物を微量から摂取し始め、耐性をつけていく治療が行われますが、大人の場合は消化器官も成熟しているため、この方法は有効ではありません。
そのため大人の食物アレルギーの治療方法では、原因食物を避けながらアレルギーと上手に付き合っていくことが重要となってきます。
原因物質の特定・除去
食物アレルギーが疑われる症状がある場合は、まずは採血で原因物質の特定、アレルギ—の重症度の判別などが行われます。食物アレルギーが疑われる場合は「アレルギー科」の受診が最も適していますが、お近くにアレルギー科がない場合は、内科・皮膚科・耳鼻咽喉科などでも検査は可能です。
アレルギー検査の費用(3割負担の場合)
約5,000〜6,000円(39項目の場合)
食後すぐに症状が発症する即時型のアレルギーでは39項目のアレルギー検査を行うことが多いです。アレルギーが疑われる症状がある場合は、検査費用は保険適用となります。検査の結果、原因物質が特定された場合は、今後その食品を口にしないように指導が行われます。
薬物療法
食物アレルギーの症状によっては炎症を抑えるために、一時的に抗アレルギー剤やステロイド薬の内服を行うこともあります。
またアナフィラキシーショックなどの重篤な症状を引き起こした場合は、「エピペン」と呼ばれる自己注射が処方されます。発症後すぐに薬剤を投与しないと命に関わる場合もあるため、エピペンを処方された場合は常に携帯しておかなければなりません。
エピペンの費用(3割負担の場合)
1本あたり:約6000円
以前はエピペンは全額自己負担でしたが、2011年より保険適用での処方が可能となりました。
まとめ
食物アレルギーというと乳幼児が発症するものというイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、近年大人になってから食物アレルギーを発症する方が増加傾向にあります。
大人の食物アレルギーでは、口周りやのどの症状が出やすいのが特徴です。食物アレルギーの対処方法としては、原因物質の特定・除去が最も重要です。
食物アレルギーは、時にアナフィラキシーショックなど重篤な症状を引き起こすこともあるため、気になる症状がある方は一度医療機関を受診してみましょう。