バセドウ病とは~最新治療と気になる費用~

2023.07.21

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監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。

バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、体内のさまざまな機能に影響を与える疾患です。

バセドウ病は適切な治療を行うことで、症状をコントロールしながら健康的な生活を送ることができる病気です。しかしバセドウ病の治療をせずに放置していると、心不全や臓器不全など、命にかかわる重篤な合併症を引き起こすことがあります

ここでは、医師監修のもとバセドウ病の症状や治療方法について詳しく解説していきます。

バセドウ病とは

バセドウ病は、甲状腺ホルモンが異常に多くつくられることで新陳代謝が過剰になり、さまざまな症状があらわれる甲状腺疾患の一つです。

甲状腺とは、体中の多くの臓器や細胞の新陳代謝を活発にする「甲状腺ホルモン」を作る役割をもっています。首の正面、のどぼとけの少し下のあたりに位置しています。この甲状腺ホルモンは、何らかの原因によって過剰に分泌されたり、分泌量が低下したりすることがあります。

バセドウ病は、男性より女性に多くみられ、特に20歳代から40歳代で発症する方が多いのが特徴です。ここでは、バセドウ病の原因と症状について解説していきます。

バセドウ病の原因

バセドウ病は自己免疫疾患の1つであるといわれています。

人間の体はさまざまな細菌やウイルスから身を守るために「免疫」が働きます。この免疫が何らかの原因によって異常をきたし、自分の体内の一部を標的として攻撃してしまうことがあります。バセドウ病の場合、甲状腺が「標的」となり、その結果甲状腺ホルモンの過剰分泌が起きるといわれています。

このような免疫の異常が起きる原因はいまだ解明されていませんが、何らかのウイルス感染・ストレス・妊娠出産などをきっかけにとして発症するのではないかと考えられています。またバセドウ病になりやすい体質かどうかは遺伝の影響も大きいといわれています。

バセドウ病の症状

バセドウ病は甲状腺ホルモンの過剰分泌により、全身にさまざまな症状があらわれます。バセドウ病の代表的な症状としては、以下の3つが挙げられます。

  • 甲状腺の腫れ
  • 眼球突出(眼球が前に飛び出る)
  • 動悸、頻脈

このうちバセドウ病の初期に自覚しやすい症状が「甲状腺の腫れ」です。のどぼとけのあたりが腫れている感じがする、首が太くなった感じがする、などがあれば一度医療機関を受診することをおすすめします。

またバセドウ病の特徴的な症状として「眼球突出」という眼の症状があります。その名の通り、眼球が正常な位置よりも前に飛び出た状態をさし、バセドウ病患者の約10~30%にみられます。

また上記以外にも、以下のような症状があらわれることもあります。

  • 体重減少
  • 暑がる・汗をかく
  • 手の震え
  • イライラする
  • 生理が止まる   など

これらの症状は、更年期障害でみられる症状と共通しているものが多く、バセドウ病の症状として気が付かない場合もあります。気になる症状があれば早めに医療機関を受診して、検査を受けるようにしましょう。

バセドウ病を放置するとどうなる?

バセドウ病は適切に治療すれば改善する病気です。しかし治療を放置していたり、自己判断で服薬を中止したりすることで、症状が悪化し、時には命に関わることもあるため注意が必要です。バセドウ病を放置し治療が遅れると、「甲状腺クリーゼ」という合併症を引き起こすリスクが高まります。

甲状腺クリーゼとは、甲状腺ホルモンが過剰な状態に耐えられなくなった結果、さまざまな臓器の不全状態に陥る病気です。主な症状は、意識レベルの低下や発熱、頻脈、心不全症状、嘔吐や下痢などがあります。甲状腺クリーゼを起こすと約10%の人は命を落とすといわれており、速やかに集中治療にあたる必要があります。

バセドウ病の治療方法と費用

バセドウ病の診断は、臨床所見(甲状腺の腫れ、眼球突出、頻脈などの症状)と検査所見(血液検査、超音波検査、放射性ヨウ素検査)をもとに行われます。診察・検査の結果バセドウ病の確定診断がおりた場合、症状や体の状態にあわせて主に以下のような治療が行われます。

抗甲状腺薬による治療

バセドウ病の治療は、基本的には抗甲状腺薬を用いた治療から開始します。主に「チアマゾール」や「プロピルチオウラシル」という抗甲状腺薬が使用されます。抗甲状腺薬は甲状腺ホルモンの過剰分泌を抑制する働きを持ち、服用することで甲状腺ホルモンの数値を正常値に近づけていくことを目指します。

多くの場合、服薬によりバセドウ病の症状は改善していきます。早い場合は1~2週間程度で症状が改善されていることを自覚し、服薬から3~4か月ほどでホルモン値も正常値へと近づきます。

しかし、症状が改善されたからといって自己判断で服薬を止めることは厳禁です。服薬を中断すると、バセドウ病の症状が再発しやすくなったり、前述の「甲状腺クリーゼ」という重篤な合併症を引き起こす恐れがあります。必ず医師の指導のもと適切に服薬を継続するようにしましょう。

治療費用の目安(3割負担の場合)
1か月あたりの薬代:約1,000円
 ※別途、初診費・再診費・検査費などがかかります。

アイソトープ(放射性ヨウ素)による治療

バセドウ病のアイソトープ治療とは、放射線ヨウ素により甲状腺を被ばくさせることで、甲状腺ホルモンの分泌量を軽減させる治療方法です。

治療は、アイソトープ(放射線ヨウ素)のカプセルを1回服用して行われます。「放射線」と聞くと不安に思われるかもしれませんが、アイソトープ治療はアメリカを中心に長年行われてきたバセドウ病の治療法であり、副作用などの心配もないといわれています。

アイソトープ治療は、抗甲状腺薬によりホルモン値の改善がみられない方や、抗甲状腺薬の服用により副作用が出た方などに行われます。ただし、妊娠中や授乳中、また妊娠の可能性のある方や、今後妊娠・出産を考えている方には治療が行えないため、医師とよく相談のうえでアイソトープ治療を行うかどうかを決定するようにしましょう。

治療費用の目安(3割負担の場合)
外来治療:約3~4万円
入院治療:約5万円

手術による治療

抗甲状腺薬やアイソトープなどの治療によってバセドウ病の改善がみられない方や再発を繰り返す方は、甲状腺を摘出する手術が検討されることがあります。

甲状腺の摘出手術は、最もバセドウ病の根治が望める治療方法です。しかし術後は甲状腺ホルモンを補う薬を生涯のみ続ける必要があることや、手術による傷が残ることなどのデメリットもあります。現在の病状や手術の必要性について、医師とよく相談のうえで決定するようにしましょう。

治療費用の目安(3割負担の場合)
約10~20万円(約1週間の入院の場合)

※「高額療養費制度」を使用することで、年齢や所得に応じて治療費用の一部が補助されます。詳しくはご加入の健康保険組合やお住まいの自治体の国民健康保険の窓口までお問合せください。

まとめ

バセドウ病を発症する明確な原因はいまだ分かっていませんが、ウイルス感染やストレス、妊娠出産、遺伝などが関係していると考えられています。

バセドウ病の治療は、抗甲状腺薬の服用からスタートし、場合によってはアイソトープ治療や手術治療が有効なこともあります。治療は数年間と長期にわたることも多いですが、医師の指導のもと適切な服薬や通院を続けることで、これまでと変わらず健康な生活を送ることができます。

治療について不安な点や困っていることなどあれば、主治医とよく相談のうえで今後の治療方法を決定していくようにしましょう。