鉄欠乏性貧血とは~最新治療と気になる費用~

2023.10.27

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監修医師:郷 正憲(徳島赤十字病院)
保有免許・資格は日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。主な著書は『看護師と研修医のための全身管理の本』。

貧血にはさまざまな種類がありますが、貧血かも…と思ったときに多くの人が該当する可能性があるのが鉄欠乏性貧血です。鉄欠乏性貧血について知っておくことで、鉄欠乏性貧血の予防や、自分にぴったりな治療法が見つかるかもしれません。

ここでは、鉄欠乏性貧血に着目し、鉄欠乏性の最新治療や気になる費用面についても詳しくご紹介します。

貧血(鉄欠乏性貧血)とは

鉄欠乏性貧血とは赤血球の産生に必要な鉄が体内から不足することで、ヘモグロビンを作り出せなくなった結果として、さまざまな症状を引き起こすものです。

人間の体内には3~5gの鉄があり、その大部分がヘモグロビンとして体内に存在します。ヘモグロビンは体内で酸素を運搬する役割を担っており、ヘモグロビン量が減少するとこれに付随した症状が出現するのです。

日本女性の約40%が鉄欠乏性貧血の疑いがあるとされています。特に、月経のある20〜40代の女性の約21%が鉄欠乏性貧血である可能性が高いとされています。

貧血の原因

鉄欠乏性貧血の原因は主に3つあります。

1つ目は鉄欠乏によるものです。つまり、鉄が体内から失われてしまったことによって貧血になってしまうというもので、その最たる理由が出血です。月経がある女性の場合、月経によって毎月大量の血が失われ、月経により1カ月で約15〜50mgの鉄が失われていると考えられています。

特に過多月経や子宮筋腫、子宮内膜症といった疾患を有している場合、月経時の出血量が健常な方と比較すると多くなるため、鉄の欠乏量も多くなるのです。ほかにも、消化管の出血や外傷による出血などで、血液とともに鉄が体外へ流れ出してしまうことで、貧血を引き起こします。

2つ目は鉄需要の増加です。例えば妊娠をして胎児へ栄養を送るために血流量が増えれば必然的に鉄の必要量が増えていきます。ほかにも、思春期では身体の急激な発育による鉄需要が増加するため、鉄が多量に必要となり、鉄欠乏性貧血になりやすくなります。

3つ目は鉄吸収能の低下です。日本人は必要量の約6割程度しか鉄を摂取できていないといわれています。特に月経で鉄が失われやすい世代や鉄需要の高まる思春期でダイエットをするなどあえて鉄の摂取を控える女性もいます。

肉・魚などに含まれているヘム鉄は25%ほどしか吸収されません。また、野菜・豆・穀物・海藻などに含まれている非ヘム鉄は3〜5%ほどしか吸収されず、食事からすべての量の鉄を吸収することはできません。

そもそもの吸収率が低いことに加えて、摂取量が不十分である結果、十分な量の鉄が体内に吸収されておらず、鉄欠乏性貧血となっている可能性が考えられるのです。

さらに、病気が原因で鉄をしっかりと摂取していても吸収がされないということもあります。

貧血の症状

貧血の症状は、前述したヘモグロビン量の減少に付随して起こります。ヘモグロビンは酸素運搬能があるため、酸素が全身に運搬されないことにより、次のような症状を引き起こします。

  • 動悸、息切れ
  • 疲労感、倦怠感
  • 匙状爪(爪が匙のように反り返り、もろく割れやすくなる)
  • 顔色の不良
  • 味覚障害
  • 集中力低下
  • やる気の低下 など

鉄欠乏状態が軽い時には症状は出ず、検査をして初めて気が付くということもあります。

重度の貧血となると異食症といって何か変わったものが無性に食べたくなる病気で、特に氷をがりがりと食べたがるようになると重度の鉄欠乏性貧血の可能性もあるのです。

貧血を放置するとどうなる?

貧血を放置していると症状がどんどん悪化して日常生活へ支障が出ます。動悸や息切れによって体を動かせない、疲労感や倦怠感、集中力の低下によって仕事に身が入らないということが起こるかもしれません。

さらに心臓は少しでも鉄が運べない酸素の運搬量を補おうと心臓の動きを高めて酸素運搬を行います。

これによって心臓がオーバーワーク気味となり、心臓や脳に負担をかけた結果、心筋梗塞や記憶力低下といったさまざまな深刻な病気を引き起こしてしまう可能性も考えられるのです。

また、妊娠中の場合は鉄欠乏性貧血を放置してしまうと低体重児出産や死産のリスクが高まるという報告もあるため、放置をせずに対応していかなければなりません。

貧血の治療と費用

鉄欠乏性貧血の治療は、まず原因をはっきりとさせて原因にあった治療を行います。たとえば、消化管内の出血で鉄が欠乏しているのであればそこの出血を止めますし、吸収能が下がっているのであれば、その理由を精査して治療をしていきます。

原因される病気がないという場合には生活習慣の改善と薬物療法が主たる治療方法です。どのような治療が行われるのか、治療にはどのくらいの費用がかかるのかをご紹介していきます。

生活習慣の改善

鉄欠乏性貧血の改善のためにまず行いたいのが生活習慣の改善です。特に、鉄の補給源でもある食事については見直したいところです。

鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があります。

ヘム鉄とは肉や魚などのたんぱく質に含まれている鉄で、吸収性が非常によく、鉄の含有量も多いことが特徴です。一方、非ヘム鉄はほうれん草やひじきなど植物性のものに多く含まれています。含有量も少なく、ヘム鉄に比べれば吸収能も劣ります。

これらの食材をバランスよく日常の食事に取り込むことで、鉄欠乏性貧血の改善が期待できるのです。食事は3食摂取し、たんぱく質やビタミンCといった鉄の吸収を促進する食材も併せて食事に取り入れてみましょう。

なお、食事の前後にコーヒー、紅茶、緑茶などのタンニンを多く含む食品を取り入れたり、加工食品、インスタント食品といったリン酸が多く含まれる食事を摂ったりすると鉄の吸収を阻害してしまうためこれらの摂取は控えることが望ましいです。

薬物療法

鉄欠乏性の治療で行われる薬物療法は鉄分の補給です。一般的に鉄分を補給するためには鉄剤の内服を行います。鉄剤には、徐放性と非徐放性のものがあります。

徐放性鉄剤とは、服用すると胃から腸にかけてゆっくりと鉄を放出していくものです。

そのため、少しずつ体内へ吸収でき、胃粘膜への刺激は少ないことが特徴です。本来、鉄剤は飲み合わせなどが非常に厳しく、水かぬるま湯でしか服用できないものが多い一方、日本茶や紅茶で服用しても治療効果への影響はないとされています。

非徐放性鉄剤とは低刺激な鉄剤です。徐放性鉄剤は胃酸を活用して吸収するため胃を切除されている方や胃酸の分泌量が低下している高齢者には使用できません。このような方々でも問題なく服用できるのが非徐放性鉄剤なのです。

鉄剤が服用できない、胃の切除や高齢化などで鉄分の吸収が不十分であるという場合や副作用によって鉄剤が服用できなかったという場合には、鉄剤の静脈投与が選択されます。

特に2022年8月に承認された鉄欠乏性貧血治療薬のデルイソマルトース第二鉄は早期にHb濃度が上昇し、投与後12週間まで効果が持続するという点から、現在注目されている鉄剤です。

経口で鉄剤を服用する場合は飲み始めてから数日で赤血球が増加し、ヘモグロビンは通常6〜8週間で正常化します。ヘモグロビンの正常化が確認されれば治療終了です。

なお、静脈注射の場合にはこれよりも早くヘモグロビンが正常化されるため、早期に治療効果を求める場合には静脈投与が望ましいといえるでしょう。

貧血の治療費

鉄欠乏性貧血の治療には健康保険が適用されます。

そのため、多くの場合が3割程度の自己負担で治療が可能です。初診の場合は初診料や血液検査料が加わるため、少々高額となりますがそれでも5,000円程度あれば治療は受けられます。

しかし、もしも鉄欠乏性貧血を誘発している病気が見つかった場合にはその病気の治療をしなければならず、治療費はもう少し高くなります。

まとめ

日本人女性に多くみられる鉄欠乏性貧血。動悸や息切れ、疲労感や倦怠感などの症状が続いている場合は、鉄欠乏性貧血が疑われます。

貧血を放置していると、症状が悪化し、日常生活に支障をきたすことがあるため、気になる症状があれば、早めに医療機関で検査をしてみることをおすすめします。