【医師監修】中耳炎は大人でも発症する?症状や治療について解説
監修医師:五藤 良将(竹内内科小児科医院 院長)
防衛医科大学校卒業、防衛医科大学校病院、自衛隊中央病院、自衛隊横須賀病院などで自衛隊医官を経て千葉中央メディカルセンター、津田沼中央総合病院など経て2019年9月に竹内内科小児科医院を継承し院長となる。
中耳炎は耳の病気の中でも頻度が高く、子どもに多くみられる耳の病気です。原因や症状によって種類があるため、風邪やプールをきっかけに発症し、耳に痛みを生じるだけでなく、大人や高齢者でも中耳炎になることがあります。
この記事では、中耳炎の原因や症状、治療法について解説しています。
中耳炎とは
中耳炎とは、鼓膜の裏にある中耳が感染により炎症を起こしている状態です。耳は、耳の通り道である「外耳」、鼓膜の裏側部分である「中耳」、さらに奥にある「内耳」があります。
中耳炎にはいくつかの種類があり、自然に治るものもあれば、そのまま放置すると、耳の聞こえが悪くなったり、手術が必要になったりすることもあるので、適切な診断を受けることが大切です。
中耳炎の原因
中耳炎のきっかけとなる中耳の感染は、風邪や上気道炎で起こります。鼻と耳はつながっているため、鼻腔や咽頭が細菌感染を起こすと、感染の原因菌が耳管を通じて、中耳に感染を起こすことがあります。
鼓膜に穴が開いている場合は、髪を洗ったりプールに入ったりすることで、耳の穴から細菌が侵入して、中耳炎を起こすこともあります。
中耳炎の原因菌となりやすいのが、以下の細菌です。特に、子どもは上気道炎をきっかけに中耳炎を発症することが多いです。
- 肺炎球菌
- インフルエンザ桿菌
- モラクセラ・カタラリース
そのほかにも、中耳炎には、中耳炎の炎症が慢性化したり、鼻炎や加齢で耳管の悪くなったり、鼓膜に塊ができたりすることで、中耳に炎症を起こす場合があります。
中耳炎の種類と症状
中耳炎は原因や経過によって4つの種類に分類されます。
- 急性中耳炎:風邪などをきっかけに、中耳に急性の炎症が起こる
- 慢性中耳炎:急性中耳炎を繰り返した場合に起こる
- 滲出性中耳炎:アレルギーや副鼻腔炎などにより、耳管の動きが悪くなることで起こる
- 珠腫中耳炎:鼓膜に真珠様の塊ができる
急性中耳炎の主な症状は、耳の痛みと発熱で、小さい子どもでは炎症により、39度以上の高熱になることもあります。中耳炎による炎症が強くなると、中耳に膿が増えて溜まることで、鼓膜に穴をかけるので耳だれが起こります。耳だれが起こると、中耳にかかっていた圧が和らぐため、耳の痛みも軽快していきます。
急性中耳炎をしっかり治療しないと、炎症が進んで鼓膜に穴が残り、慢性化することがあります。慢性中耳炎では、痛みはないもの、耳の聞こえが悪くなったり、耳だれが続いたりします。
一方、痛みや発熱などの症状がなく、中耳炎と気づくにくいのが、滲出性中耳炎です。滲出性中耳炎は、炎症で耳管の動きが悪くなるため、滲出液がスムーズに排出されず、中耳にたまるようになります。鼓膜が振動しにくくなることで、聞こえが悪くなります。
また中耳炎の中でも厄介なのが、真珠腫中耳炎です。真珠腫は鼓膜近くの耳垢が、中耳側にあたる鼓膜の裏に入り、塊を形成することで起こります。「真珠腫」という言葉からも想像できるように、鼓膜の裏にできた塊は丸く、白い光沢があります。真珠腫中耳炎は、中耳の中で塊が大きくなり、耳小骨を溶かしたり、神経にダメージを与えたりするので、耳の聞こえが悪くなったり顔面神経麻痺を引き起こしたりする原因になります。
中耳炎は大人も発症する?
中耳炎というと子どもがかかる病気のイメージを抱く人も多いでしょう。子どもは大人よりも体の抵抗力が弱く、耳管は太く短いため、細菌感染による中耳炎を発症しやすいですが、中耳炎は大人でも発症します。
大人でも、不規則な生活や強いストレスにより、体の抵抗力が一時的に弱くなることもあります。また、アレルギー鼻炎など鼻のかみすぎにより中耳炎を引き起こすこともあります。
その他にも、ビジネスマンの方で飛行機に乗る機会が多かったり、ダイビングなどで水中の深くまで潜る機会が多かったりする人は、気圧の変化により中耳炎を起こしやすくなります。
中耳炎の治療と費用
中耳炎の大きく分けて、薬物療法と手術療法があります。中耳炎の種類や状態に応じて適切な治療を行います。
薬物療法
薬物療法は、主に急性中耳炎や滲出性中耳炎に対して行われます。急性中耳炎の炎症に対しては、まずはペニシリン系の抗菌薬を使います。
抗菌剤は適切に使わないと、薬剤耐性菌(薬が効かない菌)を増やすリスクを高めるため、抗菌薬は中等症の急性中耳炎に対して使用し、症状が軽度であれば、抗菌剤を使わずに経過をみます。
なお、急性中耳炎の症状で、中耳内に膿が溜まって、鼓膜を圧迫している場合は、薬物療法と合わせて鼓膜の切開も合わせて行います。耳の痛みが強い場合は、痛み止めの薬も併用します。
滲出性中耳炎では、炎症を引き起こしている病気の治療を行います。該当の病気には、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎がありますが、軽症であれば、抗ヒスタミン薬や抗炎症薬、抗菌薬の投与を行います。
薬による治療で改善が図れない場合や、耳管の機能が十分でない子どもや高齢者に対しては手術を検討することがあります。
手術療法
手術療法は、薬物療法で改善が難しい滲出性中耳炎や、慢性中耳炎、真珠腫中耳炎に対して行います。
滲出性中耳は耳管の機能低下により、浸出液が溜まっている状態なので、鼓膜を切開して、粘液の排出を促します。
鼓膜の切開部分が閉じた部分も、症状が再び現れる場合は、鼓膜に小さいチューブを設置する必要があります。手術で設置した鼓膜チューブは、3ヵ月から半年程度で自然に排出されますが、長い期間チューブがあると、鼓膜に穴が残りやすくなります。
慢性中耳炎は、細菌のいる部分をきれいにして、鼓膜を形成します。音を伝える耳小骨を形成することもあります。手術で鼓膜を形成することで、耳だれの改善を図ります。
真珠腫中耳炎では真珠種の摘出を行います。手術をしても耳の聞こえ・めまいなどの症状が治らないこともあるので、そうなる前に摘出するのが望まれます。また、真珠種の摘出した後に鼓膜の形成を行いますが、医療機関によっては、患者さんの負担を軽減するために、真珠種の摘出と鼓膜の形成を同時に行うこともあります。
真珠腫中耳炎は再発する例が多いので、手術後も定期的に耳鼻科の診察を受けることが大切です。
中耳炎の治療費
中耳炎の治療費は、治療方法や期間によって起こります。中耳炎の主な治療費は保険適応であり、具体的な金額は以下になります。
治療法や費用(3割負担の場合)
薬物療法:およそ1500~2000円
手術(鼓膜切開術):2,070円
手術(鼓膜チューブ留置):8,010円
手術(鼓膜形成術):およそ54,300円
※自己負担3割の場合の金額。診察料・薬代を除く
まとめ
中耳炎はいくつかの種類があり症状が異なります。急性中耳炎は体の抵抗力が弱い子どもに起こりやすいですが、大人でもアレルギー鼻炎や副鼻腔炎が原因で中耳炎を起こることがあります。また、高齢者では耳管の機能低下により中耳炎を起こすことがあります。
中耳炎は種類や症状の程度によって、治療法が異なるので適切な治療を受けることが大切です。治療が遅れると、耳の聞こえが悪くなったり、慢性化したりなどのリスクがあるので、耳の症状を感じたら早めに耳鼻科の診察を受けましょう。