【医師監修】双極性障害はどんな症状がある?治療方法は?
監修医師:伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
専門領域は精神科(心療内科)、精神神経科、心療内科、 美容皮膚科、産業医。
ある時は気分が高まって気持ちが明るくなり、周囲が驚くほどアクティブな性格になったかと思えば、ある時は自分でもコントロールできないくらい気持ちが落ち込み塞ぎこんでしまう。
こういった症状にお悩みである場合、もしかしたらそれは双極性障害による症状かもしれません。
双極性障害は別名躁うつ病とも呼ばれる精神的な病気のひとつです。精神的な病気、といっても決して珍しい病気ではなく、罹患率は100人に1~2人程度。
うつ病等と比べると患者数は少ないと言われていますが、実は誰でも発症する可能性がある身近な病気のひとつです。
本記事では医師の監修のもと、双極性障害の病態や治療法、費用など分かりやすく解説していきます。
双極性障害とは
厚生労働省のe-ヘルスネットによると、双極性障害とは【気分が高揚する「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」が繰り返される気分障害】と定義されています。
(参考 厚生労働省/e-ヘルスネット 双極性障害)
絵画「ひまわり」の作者として有名な画家のゴッホが実は双極性障害だった、という説もあるようですが、芸能人の中にも自身が双極性障害であるという事実をカミングアウトされている方もいます。
昔と比べると世間の認知度は向上してきているものの、まだまだ双極性障害を正しく理解している方は少ないかもしれません。
ここでは双極性性障害の原因や症状についてお話していきます。
双極性障害の原因
双極性障害の直接的な原因は明らかになっていないというのが実情です。
ただ、発症には遺伝的要素の関与が有力と考えられており、身体や精神的なストレスによって発症するという研究も散見されます。
つまり生まれながらの性格に加え様々な社会的要因(学校や家庭、職場での苦痛や閉塞感など)によって双極性障害の側面が表出すると考えてよいでしょう。
双極性障害の症状
双極性障害の症状は、「躁状態」と「うつ状態」でそれぞれ異なる様相を呈します。
躁状態
- ほとんど寝ずに動き回る
- ひたすらしゃべり続ける
- ひとつのことに集中できない
- 無茶なことに手を出す
- 理由もなく過剰な自信
うつ状態
- 1日中憂鬱な気分になる
- 過眠・不眠
- 食欲の低下
- 興味・関心の低下
- 活動量の低下
双極性障害はこういった躁状態とうつ状態、そして何の症状も出現しない寛解期を繰り返すというのが大きな特徴です。
また、双極性障害はI型とⅡ型に分けられ、障害有病率はI型が1~2%程度、II型が3~8%程度と、発症頻度はII型の方が多いとされています。
症状の違いとしては、
- I型:躁状態とうつ状態を繰り返す
- II型:軽躁状態とうつ状態を繰り返す
というように、躁状態時の症状に違いが見られます。
うつ状態については、どちらも変わりありません。躁状態なのか軽躁状態なのかは「生活に著しい支障をきたすかどうか」で区分されます。
双極性障害の治療と費用
双極性障害の治療には主に薬物療法と心理療法が選択されます。
ここでは、双極性障害の治療と費用について詳しくみていきましょう。
薬物療法
双極性障害の治療では、以下に挙げる薬が選択されます。
- 気分安定薬
リーマス(炭酸リチウム)、デパケン(バルプロ酸ナトリウム)、ラミクタール(ラモトリギン)、テグレトール(カルバマゼピン)など - 抗精神薬
セロクエル(クエチアピン)、ジプレキサ(オランザピン)、エビリファイ(アリピプラゾール)、リスパダール(リスペリドン)、ロドピン(ゾテピン)など
こういった薬物を使用しながら気分の波を小さくし、同時に気分の相を少なくしていくことで症状を改善させていきます。
中でも双極性障害の薬物治療において中心となるのは気分安定薬で、これらの薬剤は再発予防効果も高いとされているため、調子がある程度元に戻っても長期的に服用していく必要があります。
また、こういった薬物を使用しても症状の改善が見られない場合は一時的に抗うつ剤を使用する場合もありますが、必ずしも効果が現れるとは限らず、
- 操転
- 急速交代化
- 自殺
等に繋がるリスクがあるため、使用の際は医師の指示のもと慎重に使用する必要があります。
心理療法
心理療法の目的は、「双極性障害という病気を理解し、受け入れ、薬をうまく使いながらコントロールしていくことの重要性を知る」ことです。
治療の軸はあくまで薬物療法になりますが、双極性障害はしっかりと「自身で受け入れる」ことが出来なければ薬物療法の治療効果を十分に発揮できなかったり再発を繰り返してしまいます。
心理療法の具体的な方法としては、
- 家族焦点化療法
- 対人関係社会リズム療法
- 心理教育
などが用いられます。これらはいずれも研究の中で双極性障害に対するエビデンスが示されています。
双極性障害の治療費
双極性障害の治療費としては、以下のような費用がかかることを認識しておくと良いでしょう。
- 入院にかかる費用
- 通院にかかる費用
- 薬にかかる費用
- 職場復帰支援施設にかかる費用
軽度の症状で通院治療のみで済む場合は1回数千円程度(個人差はあります)×月に数回程度の費用となります。
加えて別途カウンセリング等を必要とする場合はさらに1回あたり数千円程度の費用がかかります。
症状に応じて、入院が必要な場合や職場復帰のための支援が必要である場合、それらの費用も計算に入れる必要があるでしょう。
尚、入院費に関しては高額医療費制度を利用することである程度出費を抑えることが可能です。詳細に関しては病院の担当職員にお尋ねください。
双極性障害の再発を防ぐために
双極性障害の再発を防ぐためには、以下の3点が重要です。
- 双極性障害について正しい知識を持つ
- 自身が双極性障害であることを受け入れる
- 治すというより、双極性障害という側面を上手くコントロールすることを意識する
多くの方が双極性障害はうつ病の仲間、といった捉え方をしているかも知れませんが、実は病態の異なる別の病気であるということを念頭に置き、正しく理解し、そして受け入れる必要があります。
そのためには専門的なカウンセリングを受けながら、少しずつ自分の中で折り合いをつけていくという手順を踏むことが大切です。
焦って治そう治そうと躍起になると、逆に心が不安定になりせっかく良くなってきた症状が再び悪化してしまうかもしれません。
病気は気の持ちよう、等と言った言葉がありますが、心の病を精神論だけで解決することは不可能です。
カウンセリングと平行して双極性障害の症状を落ち着かせ、感情をコントロールしやすくするためには薬の力も借りながら長い目で治療を続けていく必要があります。ある程度症状が落ち着いてきたとして途中で自己判断により投薬をやめてしまう方がいますが、そういった行為も再発リスクを助長します。
自分の主治医と周囲でサポートしてくれる人たちを信じ、ご自身のペースで治療を続けていきましょう。その姿勢を貫くことこそが、最も効果的な再発予防法です。
まとめ
双極性障害では気分が高揚する「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返します。
双極性障害の明らかな原因は分かっていませんが、本人の生まれつきの性格に加えてストレスなどの社会的要因があわさり、発症すると考えられています。
こころの病気は決して珍しいことでも、恥ずかしいことでもありません。まずはしっかりと自分の病態に目を向けて、信頼できる医師やカウンセラーのもと適切な治療を受けることで、症状の改善を目指していきましょう。