【医師監修】肺がんのステージ分類と治療方法について解説

2023.10.26

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監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。

2019年の国立がん研究センターの統計によれば、肺がんは死亡率が男女計で1位のがんです。

肺がんは初期症状が現れにくく、診断を受けたときにはある程度がんが進行していることも少なくありません。

肺がんに限らず、多くのがんは早期がんで発見すれば、治療の選択肢も増えて、その後の予後に影響をもたらします。

この記事では、肺がんのステージ分類や治療方法、費用の目安について解説しています。

肺がんのステージ分類

がんのステージとは、がんの進行度を示すものです。通常、がんのステージはⅠ期からⅣ期まであり、数字が大きくなるほどがんが進行していることを意味します。

国内のがんのステージ分類は、国際的ながんの病気分類であるTNM分類に則っています。ちなみに、TNM分類の各アルファベットには以下の意味があります。

  • T(tumor):がんの状態
  • N(node):リンパ節への広がり具合
  • M (metastasis):ほかの臓器への転移の程度程度

がんのステージ分類する理由は、治療方針を決めたり、治療成績を見立てたりするのに役立つためです。

一般的に、ステージの低い早期がんでは腫瘍が限局しているため手術を行えますが、がんが全身に転移しステージが進むと、化学療法や放射線療法を中心とした治療になります。

肺がんでもステージを知ることが、適切な治療を決める第一歩となります。

特に、肺がんは組織型によって分類があり、大きく分けて「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」があります。

以降では、各タイプの肺がんのステージ分類についてみていきます。

非小細胞肺がんのステージ分類

非小細胞肺がんは、腺がん・扁平上皮がん・大細胞がんを含み、肺がんの80%を占めます

非小細胞肺がんのステージ分類は以下になります。

  • ⅠA期:肺の中にある3㎝以内のがん
  • ⅠB期:3~4cmのがん
  • ⅡA期:4~5cmのがん
  • ⅡB期:5~7cmのがん、またはがんが気管支近くのリンパ節に転移していたり、肋骨にも及んだりしている
  • ⅢA期:がんが気管支を超えて、気管や食道近くのリンパ節に転移している
  • ⅢB期:がんが片側の肺のリンパ節に転移している、または心臓や食道など近くの臓器に及んでいる
  • Ⅳ期:がんが脳・骨・肝臓など遠隔の臓器に転移している、胸水にがん細胞がある

小細胞肺がんの病期分類

小細胞肺がんは、肺がんの20%を占める割合の少ないがんですが、進行が速く転移しやすいがんです。

小細胞肺がんでも、肺がんの状態を把握するのにI〜Ⅳ期のステージ分類を使いますが、治療方針を決めるために以下の分類も用いられます。

  • 限局型:がんが片側の肺と近くのリンパ節にみられる
  • 進展型:がんが他の臓器に転移している

肺がんの治療方法

肺がんの治療で行われるのが、手術・化学療法(抗がん剤)などの薬物療法・放射線治療の3つです。非小細胞肺がんのステージごとの治療内容は以下になります。

  • ⅠA期:手術(+抗がん剤)
  • ⅠB期:手術と抗がん剤
  • ⅡA期:手術と抗がん剤
  • ⅡB期:手術と抗がん剤
  • ⅢA期:抗がん剤と放射線治療(場合により手術)
  • ⅢB期:抗がん剤(+放射線治療)
  • Ⅳ期:抗がん剤

手術

肺がんで手術を行えるのは、ステージⅠ・Ⅱと、ⅢAの一部のがんです。

実際の手術では、がんがある肺葉とその周りのリンパ節を切除します。また、がんが小さく、リンパ節転移の可能性が低い場合や、呼吸機能が低下している患者さんには、部分的な切除を行います。一方、がんが気管支など肺の周りの臓器に広がっている場合は、一緒に切除することもあります。

これまで、肺がんの手術は開胸手術が一般的でしたが、近年は医療機器の発達により、胸腔鏡カメラを使った胸腔鏡下手術を行う施設も増えています。

胸腔鏡下手術は、開胸下手術と比べると、視野が狭く手技が限られる欠点がありますが、骨切りなどの大がかりな処置が不要で、手術による傷が小さく、患者さんの体の負担を小さくできます

化学療法とその他の薬物療法

化学療法は、抗がん剤でがん細胞を減らして増殖を抑える治療法です。

抗がん剤の投与方法には、点滴によるものと内服薬によるものがあります。

これまでの抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞にもダメージを与えるため、相応の副作用もみられていました。

また、肺がんの中には特定の遺伝子の異常によって起こることが明らかにあり、原因遺伝子のみをダーゲットとした「分子標的薬」を使用することもあります。

分子標的薬は通常の抗がん剤と異なり、正常な細胞には作用しないので、副作用リスクを抑えられるメリットがあります。肺がんの原因が特定の遺伝子の異常によるものである場合、抗がん剤治療よりも高い効果を得られるとされています。

また、近年ではがん細胞を攻撃する免疫細胞を活発化させる免疫療法の有効性が確認されており、「免疫チェックポイント阻害薬」も使用されています。

肺がんになると体の免疫細胞がうまく働かないことが分かっています。化学療法に加えて、分子標的薬や免疫療法など新しい治療法を組み合わせることで、抗がん剤を単独で使用するよりも、治療成績の向上に貢献しています。

放射線治療

放射線治療は、エックス線を照射してがん細胞にダメージを与える治療法です。がん細胞は分裂や増殖の能力は強いですが、DNAが傷つきやすい一面があるため、エックス線によってがん細胞のDNAの切断を図ります。

肺がんの放射線治療は、手術が難しいケースや、手術適応があっても手術を希望されない方に対して行われます。

早期がんでは、強い放射線をピンポイントで数回照射する「定位放射線治療」を行います。手術適応でない進行がんでは、弱めの放射線を30回ほど照射します。

そのほか、進行がんで骨や脳に遠隔転移がみられている場合は、症状を和らげる目的で放射線治療を行うことがあります。

また、放射線治療の中には、陽子線治療や重粒子線治療などの先進医療もあります。

肺がんの治療にかかる費用

肺がんの治療は保険適用がされるものと保険適用外(先進医療)のものがあります。

具体的な治療費用の目安は以下になります(手術代を含む)。

手術
約130~170万円

薬物療法
約60~100万円

放射線治療
約50~90万円

保険診療は、年齢や所得に応じて1〜3割の自己負担になります。

肺がんのように治療費用が高額になる場合は、「高額療養費制度」を使えます。

健康保険の加入先で手続きすることで、一定額を超えた分の差額を受け取れる制度です。

なお、70歳以上の方に関しては、特定の手続きをしなくても、支払いは高額療養費の自己負担額までになります。

まとめ

肺がんはがんの進行程度によるステージ分類があり、治療方針や治療成績を見立てるのに役立ちます。肺がんの治療内容は、手術、化学療法、放射線治療の3つがあり、がんの病期に合わせた適切な治療を行います。

肺がん治療は保険適応のものと、先進医療など保険適用外のものがありますが、保険適応の治療に関しては、1ヵ月の治療費が一定額を超えると、高額療養費制度を使えます。