腫瘍マーカー検査でがんは発見できる?メリットデメリットを解説
監修医師:中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)
兵庫医科大学卒業。米国内科学会上席会員、日本内科学会総合内科専門医などの資格を保有。
主な研究内容・論文は「生活習慣関連因子と大腸カプセル内視鏡検査」。
がん検診の一つとして知られる腫瘍マーカー検査。腫瘍マーカー検査は、健康診断や人間ドックのオプション検査として、採血や採尿のみで簡単に行うことができます。費用も数千円と比較的安価で受けられるため、一度検査をしてみようかと悩んでいる方もいるかもしれません。
ただし腫瘍マーカー検査には、メリットだけでなくデメリットもあることをきちんと理解しておく必要があります。
この記事では、医師監修のもと腫瘍マーカー検査とは何か、またメリットデメリットについて詳しく解説していきます。
腫瘍マーカーとは
腫瘍マーカーとは、がん細胞によって作られる特殊なタンパク質などの物質のことをさします。がんの種類によっては、がん細胞が増えることで腫瘍マーカーの数値が高くなるため、がんの有無を調べるための検査の一つとして使用されています。
腫瘍マーカー検査の主な使用用途は、がん治療を行っている方の経過を見たり、がんの転移・再発がないかをチェックすることです。
また腫瘍マーカー検査はがん検診の目的として、健康診断のオプション検査として任意で選択したり、医療機関によっては人間ドックの検査項目に含まれている場合もあります。
ここでは、がん検診の目的で行われる腫瘍マーカー検査について詳しく解説していきます。まずは、メリットデメリットについてみていきましょう。
腫瘍マーカー検査のメリット
がん検診を目的とした腫瘍マーカー検査には以下のようなメリットがあります。
- 体への負担が少ない
- 比較的安価である
- がん以外の病気の発見につながることがある など
腫瘍マーカー検査は採血または尿検査のみで結果が分かります。通常健康診断や人間ドックであれば採血や採尿を行うため、同時に腫瘍マーカー検査を行うことができ、体に負担はかかりません。
他にも、MRI検査やCT検査などと比べて腫瘍マーカー検査は比較的安価で受けることができる点、がん以外の病気の発見につながることもあるといったメリットが挙げられます。
腫瘍マーカー検査のデメリット
腫瘍マーカー検査には、上記のようなメリットがある一方でデメリットもあることを理解しておきましょう。
- がんの早期発見には適していない
- 実際にはがんではないが、数値が高くなることがある(偽陽性)
- がんがあっても、数値が高くならないこともある(偽陰性) など
腫瘍マーカーは一般的に、がんの進行に伴い数値が高くなっていく傾向があります。そのため、早期がんでは異常値が出ないことも多く、早期がんの発見には適していないといわれています。
またがん以外の原因によって腫瘍マーカーの数値が高くなることもあれば、がんがあっても腫瘍マーカーの数値が高くならないこともあります。「腫瘍マーカーの数値が高い=がんがある」あるいは「腫瘍マーカーの数値が低い=がんはない」と断定することはできません。
こういったデメリットから、腫瘍マーカー検査は現在国が行うがん検診としては推奨されていません。腫瘍マーカー検査はあくまでがん診断の補助としての役割に過ぎないということを理解しておきましょう。
腫瘍マーカーの種類と特徴について
腫瘍マーカーは約40~50種類あるといわれています。ここでは、健康診断や人間ドックなどで検査される主な腫瘍マーカーの種類と特徴について解説していきます。
CEA
CEAは、大腸がん・胃がん・甲状腺がん・乳がんなどの診断に使用される腫瘍マーカーです。
一般的にCEAの基準値は「5.0ng/ml以下」とされています。がん以外にも、慢性肝疾患や喫煙などによりCEAの数値は高くなることがあります。
CA19-9
CA19-9は、大腸がん・胃がん・胆道がん・すい臓がんなどの診断に使用される腫瘍マーカーです。
一般的にCA19-9の基準値は「37.0 U/ml以下」とされています。がん以外にも、膵炎や胆石症などの疾患によりCA19-9の数値は高くなることがあります。
AFP
AFPは、肝臓がんなどの診断に使用される腫瘍マーカーです。
一般的にAFPの基準値は「10.0ng/ml以下」とされています。がん以外にも、肝炎や肝硬変などの疾患によりAFPの数値は高くなることがあります。
PSA
PSAは、前立腺がんなどの診断に使用される腫瘍マーカーです。
一般的にPSAの基準値は「4.0ng/ml以下」とされています。がん以外にも、前立腺肥大症や前立腺炎などの疾患によりPSAの数値は高くなることがあります。
PSAは、現在前立腺がんの早期発見のために最も有効な検査であるといわれています。
CA125
CA125は、卵巣がんや子宮頸がんなどの診断に使用される腫瘍マーカーです。
一般的にCA125の基準値は「35.0U/mL以下」とされています。がん以外にも、子宮内膜症や子宮筋腫などの疾患や妊娠、生理期間中などにCA125の数値は高くなることがあります。
SCC
SCCは、子宮頸がんや食道がんなどの診断に使用される腫瘍マーカーです。
一般的にSCCの基準値は「1.5ng/mL以下」とされています。がん以外にも、アトピー性皮膚炎や気管支炎などによりSCCの数値は高くなることがあります。
腫瘍マーカーの数値が高かったら?
健康診断などで腫瘍マーカーの数値が高かった場合は、医療機関で画像検査などの精密検査が必要になることもあります。
ただし前述の通り腫瘍マーカーの数値が高いからといって、必ずしもがんがあるというわけではありません。そのため医師によっては、腫瘍マーカー検査の数値が高いからといって、すぐに精密検査を行わないこともあります。
もちろん実際に腫瘍マーカー検査からがんが見つかる可能性もあれば、がん以外の他の病気が見つかることもあります。腫瘍マーカー検査を受けて異常値が出たのであれば、自己判断はせずに一度かかりつけの医師に相談してみることをおすすめします。
腫瘍マーカー検査の費用
健康診断や人間ドックで行われる腫瘍マーカー検査は、保険適用外のため全額自己負担となります。
医療機関によっては、1項目から検査可能な場合と、3~6項目ほどがセットになっている場合もあります。腫瘍マーカー検査の費用は医療機関によっても異なりますが、費用目安は以下の通りとなります。
腫瘍マーカー検査の費用(自費の場合)
1項目あたり;約1,500~3,000円
3項目セットで約5,000~6,000円、5項目セットで約10,000円といった料金設定をしている医療機関もあります。
また基本の人間ドックの項目に腫瘍マーカー検査が含まれている場合もあるため、検査を希望されている方は、一度医療機関に確認してみると良いでしょう。
まとめ
腫瘍マーカー検査は、がんの有無を調べるための検査の一つです。採血や採尿のみで手軽に検査を受けることができます。
しかし腫瘍マーカー検査は、がんの早期発見には適しておらず、偽陰性や偽陽性の結果が出ることもあるというデメリットもあります。がんの確定診断にはならず、あくまでがん診断の補助としての役割にすぎないということを理解しておく必要があるでしょう。
ただし唯一、前立腺がんの検査で行われるPSAは、がんの早期発見に有効であることが分かっています。
大切なことは、腫瘍マーカー検査の結果だけでがんの有無を判断するのではなく、他の検査と併用したり、日頃から気になる症状がないかなどを注意してみていくことだといえるでしょう。