PET検査はがんの早期発見に有効?デメリットはある?
監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。
日本人は生涯で「2人に1人はがんになる」といわれています。昔は「がん」というと致死率が高く治らない病気だと思われていましたが、近年医療技術の発展や新しい治療薬の開発により多くのがんは「治る病気」へと変化してきています。
もしがんを患っても発見・治療が早ければ早いほど、予後は良好であることが多いです。そのため、一定の年齢以上であれば自覚症状がなくても定期的にがん検診を受けることが推奨されています。
そこで今回はがん検診の一つである「PET検査」について、医師監修のもと詳しく解説していきます。
PET検査とは
PET検査とは、全身のがんなどの病変を調べるための画像検査のことです。PETとは「Positron Emission Tomography」の略であり、日本語では「ポジトロン断層撮影法」とも呼ばれています。
PET検査は一度の検査のみで全身のがんを調べることができ、従来の画像診断と比べて小さな病変も発見しやすいことが特徴です。
PET検査は主に既にがんと診断された方の詳しい病状を調べたり、がんの転移や再発を調べるために使用されます。また医療機関によっては人間ドックなどのオプション検査として、自費でPET検診を行うことも可能です。
PET(ポジトロン断層撮影法)を使ったがん検診は1994年に日本から始まりました。
2008年の国立がん研究センターの調査によると、PET検診におけるがん発見率は0.96%、これは他のがん検診と比べても高い数字であることが分かっています。
しかしPET単独の検診では見逃されてしまうがんもあるため、PET検査のみでがんが必ず発見できるというわけではありません。
検査方法について
PET検査では、「FDG」という放射能をわずかに含むブドウ糖の薬剤を使用します。
がん細胞は、正常の細胞と比べて約3~8倍ものブドウ糖を取り込む性質があるといわれています。PET検査ではこの性質を利用し、FDGを体内に投与したのち、全身の画像を撮影してブドウ糖が集まっている箇所がないかどうかを調べます。
PET検査ではFDGを静脈注射により体内に投与し、薬剤が全身に行きわたるまで1時間ほど安静にします。その後、機械の上に30分ほど横になって全身の撮影を行います。注射自体のわずかな痛みは発生しますが、体への負担がほとんどない状態で検査できるという特徴があります。
PET検査で分かること
PET検査では、がん(悪性腫瘍)の他に、血管の異常に関する病気(心筋梗塞・狭心症・脳梗塞など)の発見にも役立ちます。
前述の通りPET検査では全身のがんを調べることができますが、部位によって見つけやすいがんと見つけにくいがんがあるといわれています。
PET検査で見つけやすいがんは主に以下の通りです。
- 大腸がん
- 甲状腺がん
- 肺がん
- 乳がん など
前述の通り、PET検査はがん細胞のブドウ糖を取り込みやすいという性質を利用して検査を行います。
そのため、がんとは関係なくブドウ糖が集まりやすい消化管や泌尿器のがんはPET検査では見つかりにくいといわれています。
PET検査で見つけづらいがんは主に以下の通りです。
- 胃がん
- 前立腺がん
- 膀胱がん など
PET検査の注意点
PET検査は持病や体の状態によっては検査が行えないこともある点に注意しましょう。特に以下に当てはまる方は、一度医療機関にPET検査の実施可否について確認してみることをおすすめします。
- 糖尿病の方、血糖値が高い方
- 閉所恐怖症の方
- 妊娠中・授乳中の女性
- 外傷や慢性の炎症がある方
- 体内にペースメーカーや金属などの埋め込みがある方 など
糖尿病の方や高血糖の状態が続いている方は、がん細胞にブドウ糖が集積しにくいという特徴があるため、正確な診断ができないことがあります。
また検査にはごくわずかな放射線を含む薬剤を使用するため、一般的に妊娠中や授乳中の方にはPET検査が行えないケースが多いです。
他にも、検査にあたり不安な点や気になることがあれば、事前に医療機関へ問い合わせをして、実施可否について確認するようにしましょう。
PET検査は万能ではない
PET検査はがんの早期発見に役立つ検査ですが、必ずしも正確な診断ができるわけではないということも理解しておく必要があるでしょう。
PET検査では消化管や泌尿器のがん、またスキルス性のがんや播種性転移をしているがんなどは見つけづらいことがあります。
またPET検査で異常が見つかった場合ものの本当はがんではなかった(偽陽性)、反対に異常が見つからなかったものの本当はがんがあった(偽陰性)という結果がでることもあります。
PET検査を行う際は、他の検査(血液検査・レントゲン・超音波検査など)も併用して行うことで、より精度の高い診断が可能になります。
特に胃がんであれば胃内視鏡検査、前立腺がんであればPSA検査など、がんの種類によってはPET検査よりも他の検査の方が早期発見に適していることもあります。
PET検査の被ばくについて
PET検査では、放射線をわずかに含む「FDG」という薬剤を使用して検査が行われます。
放射線というと「怖い」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかしFDGから出る放射線の量はごくわずかであり、検査後はほとんど尿と一緒に体外に排出されるため、人体への影響はないといわれています。
日本では、1年間の日常生活の中で平均2.1mSv(ミリシーベルト)の放射線を受けているといわれています。通常100mSv以上の被ばくがあると人の健康に影響をおよぼすことが確認されていますが、PET検査で受ける放射線量はおよそ2~10 mSvほどです。(参考:PET検査とは:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp))
ただし、妊娠中の方や妊娠の疑いがある方は胎児への放射線被ばくがあるため、原則PET検査は行えません。
また健康への影響はないとはいえ、不必要に何度もPET検査を行うことは推奨されておりません。
PET検査の費用
がん検診の目的として行われるPET検査は原則保険適用外であり、全額自己負担となります。
ただし、PET検査を行った結果がんなどの疾病が見つかり、継続的な治療が必要となる場合には保険適用となることもあります。自費でPET検査を受けた場合でも、検査の結果が出るまでは領収書は捨てずに保管しておくようにしましょう。
PET検査の費用(全額自己負担の場合)
約10~15万円
PET検査の費用は医療機関によっても異なりますが、10万円前後であることが多いです。ただし医療機関によってはPET検査単体では行っておらず、通常の健康診断や人間ドックとあわせて行っていることもあり、その場合は15~20万円ほどとなります。
まとめ
PET検査は、一度の検査で全身のがんのスクリーニングが可能な検査であり、従来の画像診断と比べて小さながん細胞も発見しやすいというメリットがあります。
ただし持病や体の状態によっては検査が行えないこともある点や、必ずしも正確な診断ができるわけではないというデメリットもしっかり理解したうえで、検査を行うべきか検討する必要があります。また他のがん検査と比べても、PET検査は非常に高額となる検査だということも認識しておきましょう。
PET検査に限らず、自身の健康管理のためには日頃から体調の変化等に目を向けるようにすることが重要です。そしてもし自覚症状がなくても、定期的に健康診断を受けて、体の状態をチェックしていくようにしましょう。