大人の麻疹(はしか)の症状は?感染したかもと思ったら

2023.06.21

  • LINE

監修医師:郷 正憲(徳島赤十字病院)
保有免許・資格は日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。主な著書は『看護師と研修医のための全身管理の本』。

季節性インフルエンザのおよそ10倍の感染力をもつといわれる麻疹(はしか)。最近では2019年に麻疹が国内で大流行しましたが、感染者のおよそ7割が成人であり、麻疹に対する免疫が不十分な大人の存在が指摘されています。

新型コロナ感染症による規制も緩和し、世界中で人の移動が活発になってきた2023年。世界各地では麻疹患者数が増加しており、麻疹の免疫がない方はいつ感染してもおかしくありません。

ここでは、医師監修のもと麻疹の症状や感染経路、また感染したかもと思ったらどうすべきかについて詳しく解説していきます。

麻疹とは

麻疹とは、麻疹ウイルスによって引き起こされる急性の感染症のことです。

麻疹の感染力は極めて強く、広い体育館のような場所でも麻疹の患者がいると、そこにいる多くの方が感染するほどです。そして免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症し、一生免疫が持続するといわれています。

麻疹は子どもの感染症と思われがちですが、麻疹に対する免疫が不十分な大人が多く、近年は大人の方が多く感染しています

昔は幼少期に麻疹に感染して自然に免疫を獲得するのが通常でした。しかし1960年代にワクチンができると、自然感染は減少しワクチンによる免疫獲得に依存するようになりました。

この結果、ワクチンを接種していない人やワクチンの効果が十分に出ていない人が多く存在するようになり、大人の麻疹患者が多く発生するようになったと考えられています。

麻疹の症状

麻疹ウイルスに感染後は10~12日の潜伏期間を経て、以下のような経過をたどります。

  • カタル期(前駆期)
  • 発疹期
  • 回復期

それぞれの症状について詳しくみていきましょう。

カタル期(前駆期)

麻疹ウイルスに感染後、症状が出始めた初期段階のことを「カタル期(前駆期)」といいます。カタル期は周囲への感染力が最も強い時期となります。

カタル期の主な症状は、38℃前後の発熱と咳や喉の痛みなどの風邪症状です。発熱などの症状は3日ほど続きます。

また頬の内側に、「コプリック斑」という白い小さな斑点のような湿疹があらわれます。

発疹期

コプリック斑が出現した翌日あたりから、全身に発疹が広がる「発疹期」に入ります。

カタル期の発熱が一旦下がったあと、半日位して今度は39℃を超える高熱が出ます。

また発熱とあわせて発疹が①耳の後ろ、首、おでこ ②顔、体幹、上腕 ③手足の先 の順に1~2日ほどかけて全身に広がります

発疹は、初めは鮮紅色で平らですが、次第に隆起して発疹同士がくっつき、暗赤色へと変化していきます。

回復期

発疹出現と共に3〜4日持続した熱は下がり、「回復期」に入ります。

発疹は出てきた順に退色していきますが、色素沈着がしばらく残り、徐々に消えていきます

麻疹の合併症

大人の麻疹は、さまざまな合併症にも注意が必要です。麻疹の合併症により重症化の恐れがあり、そして麻疹患者の1,000人に1人は死亡するといわれています。

麻疹の合併症で多いものは肺炎、中耳炎、脳炎で、中でも肺炎と脳炎は麻疹の二大死因となります。

そして、重篤な合併症である「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」を4〜8年後に発症することもあります。SSPEでは、知能障害や運動障害が徐々に進行して、数年〜十数年で死に至ることもあります。

麻疹の見分け方

麻疹の初期症状と似た病気に、風邪や風疹、みずぼうそうなどがあります。

これらは初期段階では区別がつかないことも多いため、注意深く症状を見ていくことが重要です。

麻疹特有の症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 発熱が一旦下がったあとの高熱
  • 高熱と共に発疹が全身に広がる
  • 発疹は徐々に隆起して融合する
  • 発疹は鮮紅色から暗赤色へ移行し退色するが、しばらく色素沈着が残る

これまでカタル期にみられるコプリック斑は麻疹特有の症状であると考えられていましたが、2019年風疹や他のウイルス感染でも出現することが報告されました。

診断時は、こういった麻疹特有の全身症状の他、ウイルス遺伝子の検出や抗体検査にて麻疹の確定診断が行われます。

麻疹の感染経路

麻疹は麻疹ウイルスが感染することで引き起こされます。麻疹の感染経路には、①空気感染②飛沫感染③接触感染があります。

空気感染では、麻疹ウイルスを含む飛沫が乾燥して飛沫核として空気中を漂っているものを吸い込むだけで、感染してしまいます。広い空間でも、その場にいるほとんどの人が感染してしまうほど麻疹ウイルスは強力です。

そのため麻疹は手洗いやマスクなどでは完全には防ぎきれず、最も効果的な予防方法としてはワクチン接種となります。

麻疹の予防とワクチン

WHOは2015年、日本において麻疹の土着株は確認されず麻疹の「排除状態」であると認定しました。つまり近年報告されている麻疹は、全て海外からの持ち込みになります。

前述の通り、非常に強い感染力をもつ麻疹を予防するには、ワクチン接種が最も有効な方法となります。

日本では1978年から乳幼児の麻疹ワクチンの定期接種が義務化されています。2005年までは1回のみの接種でしたが、2006年以降は2回接種に変更となりました。

ワクチンによる麻疹の免疫獲得率は、1回接種で93〜95%以上、2回接種で97〜99%以上と、2回接種した方の有効性が示されています

ワクチンは通常、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を使用します。1回目の接種から1ヶ月経った後に、2回目の接種が必要です。

このMRワクチンは、大人は任意接種(全額自己負担)となり、費用は1回あたり8,000〜10,000円程度です。お住まいの自治体によっては、MRワクチンの接種費用の助成がおりる場合もありますので、詳しくは自治体のHP等をご確認ください。

麻疹の検査と治療

「麻疹患者に接触したかも」「麻疹が疑われるような症状がある」といった場合には、どのような対応をすべきでしょうか。

ここでは、麻疹が疑われる時の検査や治療について説明します。

麻疹が疑われる場合はどうすればいい?

発熱や発疹など麻疹のような症状がある場合は、必ず事前に医療機関に電話等で伝え、受診の可否や注意点を確認してからその指示に従ってください

麻疹の感染力は非常に強力ですので、医療機関へ行く時は周囲の方への感染を防ぐためにもマスクを着用し、公共交通機関の利用は可能な限り避けるようにしましょう。

麻疹が疑われる場合、医療機関では身体症状などの診察のうえ、ウイルス遺伝子の検出や抗体検査が行われます。

麻疹の治療

検査の結果、麻疹と診断された場合の治療法は、発熱や咳、鼻水などの症状を軽くするための解熱剤や鎮痛剤などを使用した対症療法となります。麻疹ウイルスに対する有効な抗ウイルス薬はありません

大人の場合、肺炎や中耳炎などの合併症を発症することも多く、その場合は抗菌薬が使用されます。

まとめ

麻疹に対する免疫が不十分な大人が多く、子どもより大人の麻疹が増加しています。

麻疹は非常に感染力が強く、そして大人が麻疹に感染すると合併症により重症化しやすいといわれています。麻疹は広い空間でも空気感染で多くの人に感染しますので、予防はワクチン接種しかありません。

麻疹が疑われる症状がある方は、必ず事前に医療機関に電話等で伝え、受診の可否を確認し、医療機関の指示に従って行動するようにしましょう。