PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、症状や診断について解説
監修医師:岡本 浩之(医療法人幸啓会 北本心ノ診療所)
2003年3月 東京大学医学部 卒業後、東京大学医学部附属病院 精神神経科に入局。 2011年4月 北本心ノ診療所 開院。専門は精神科(心療内科)。
PTSDとは精神疾患の一つであり、命にかかわるようなトラウマを体験した人であれば誰しもがかかりうる病気です。
PTSDは、自分の意識とは無関係にそのトラウマ体験が思い出され、被害が続いているような感覚になります。悪化すると、うつ病やパニック障害などを併発してしまう可能性があり、気になる症状があれば、早めに診断・治療の受診が必要です。
ここでは、PTSDの症状や診断について詳しく解説していきます。
PTSDとは
PTSDは日本語では「心的外傷後ストレス障害」といわれ、実際にまたは身の回りで生死にかかわるようなトラウマを体験したあとにみられるストレス反応のことを指します。PTSDはこころの病気の一つであり、日本での生涯有病率は約1.3%といわれています。
トラウマ体験をしたあとに一時的に気分が落ち込んだり、不安を感じたり、不眠などの症状があらわれることは、決して珍しいことではありません。こういった症状は一般的に、時間の経過と共に改善していきますが、1か月以上継続するという場合にはPTSDが疑われます。
PTSDの原因
PTSDの原因は一般的に、①急性的に起こる災害などのトラウマ と ②繰り返し起こる心理的なトラウマに分類されます。
具体的には以下のような体験がPTSDの原因になります。
- 地震、洪水、火事のような災害
- 事故、戦争、テロのような人災
- 監禁、虐待、体罰などの犯罪
- パワハラ、モラハラ、いじめ、DV、性被害 など
上記のように、命の危険を感じたり、人としての価値を損なわれたりといった体験がPTSDの原因となります。
中でも性被害など人に打ち明けにくいようなトラウマは、PTSDを発症しやすい傾向にあります。
PTSDの症状
PTSDでは生死にかかわる体験に基づいたストレス反応がみられ、具体的には以下のような症状がみられます。
- 侵入症状
- 回避行動
- 認知と感情のネガティブ変化
- 覚醒度と反応性の著しい変化
それぞれの特徴について詳しくみていきましょう。
侵入症状(記憶がよみがえる)
侵入症状とは、自分の意志とは関係なく辛い体験に関する苦痛な記憶を思い出したり、悪夢を見たりといった症状が繰り返し出現することを指します。
人によっては、辛い体験を思いだすだけではなく、実際に目の前で同じ体験が起こっているようにリアルにフラッシュバックする場合もあります。
また辛い記憶を思い出すことによって、苦痛・怒り・無力感などさまざまな感情を引き起こします。
回避行動(記憶に関連した場面を避ける)
回避行動とはトラウマに関連する人や出来事、場所などを避け、記憶が断片的になり重要な部分を思い出せなくなる症状を指します。
例えば、加害者と同世代の人と関わるのを避けるようになる、トラウマ体験をした駅や建物を避けるようになる、といった症状があらわれ、日常生活に支障をきたします。
認知と感情のネガティブ変化(否定的な感情を持つ)
PTSDでは、トラウマになった出来事の重要な部分を思い出せなくなることがあります。
感覚が麻痺したり、他の人から孤立したように感じたりすることもあります。そして抑うつ症状も見られ、さまざまなことに関心や興味を持てなくなります。
またトラウマになった出来事についての考え方が歪んでしまい、自分や他人を責めることもあります。
例えば「自分だけが生き残ってしまった」などの罪悪感や否定的な感情を強く感じ、日常的に幸福感や満足感が感じられなくなることもあります。
覚醒度と反応性の著しい変化(過剰に神経質になる)
PTSDでは常に神経が張り詰めており、物事に敏感になります。
辛い記憶がよみがえっていない時でも、日常的に以下のような症状があらわれることがあります。
- 常にイライラする
- 些細なことや物音で驚く
- 警戒心が極端に強くなる
- どきどきする
- 睡眠障害が起こる
- 集中できない
- めまいがする など
PTSDかもと思ったら
前述した症状が1か月以上続き、精神的な苦痛によって日常生活に支障をきたすことがあれば、精神科などの医療機関、または専門の機関に相談するようにしましょう。
しかし、命の危機を感じるほどの体験をしていても、悩まされている症状と結びつけられない場合もあります。
原因がわからないまま精神的に不安定な症状が続くと、原因がわかっている場合以上に本人や周囲も過剰に疲弊してしまいます。そういった場合は、まずは自分の症状が過去の体験によるものだということに気づくことが、PTSDの回復の第一歩となります。
PTSDの診断
辛い経験の直後は、ほとんどの人に前述したようなストレス反応が起こりますが、時間の経過と共に自然に回復していきます。
しかしトラウマ体験に関連した症状が1か月以上続いたり悪化したりする場合は、PTSDの診断がつく場合があります。
またPTSD患者は、他の精神疾患(うつ病、パニック障害、アルコール依存症)などを併発していることも少なくありません。
こういった合併症のリスクを下げるためにも、PTSDが疑われる症状が続いている場合は、躊躇わずに医療機関や専門の機関に相談するようにしましょう。
PTSDはどこで相談できる?
PTSDは精神科や心療内科などの医療機関で診断されますが、受診先に迷ったり病院へ行くことに抵抗があったりする場合は、医療機関以外の相談窓口を頼るのも一つの手です。
トラウマとなる体験が、犯罪の被害によるものであれば警察でカウンセリングを受けられます。また警察だけではなく、行政の相談窓口でもカウンセリングを受けることができます。どこに相談すればいいか分からないという場合はお住まいの市区町村の行政窓口に相談してみましょう。
地震などの大きな災害時には、救護班に精神科医や心理療法士などが派遣されている場合もあるため、救護スタッフに相談できないか確認するのもひとつの手段です。
特に性被害や虐待などの体験は人に話すこと自体がストレスに感じてしまうということも多いでしょう。しかしPTSDを放置しているとどんどん症状が悪化したり、何よりも自分自身が辛い思いをし続けることになってしまいます。
最初から全てを話すのは難しくても、まずは信頼できる相談先を見つけ、少しずつでも過去のトラウマと向き合っていくことがPTSDの治療につながります。
まとめ
PTSDは命の危機に直面し、精神的な苦痛を長期間受けることで、誰もが起こり得る心理的な疾患です。主な症状として、「侵入症状」「回避行動」「認知と感情のネガティブ変化」「覚醒度と反応性の著しい変化」があります。
PTSDは重症化すると、うつ病やパニック障害、アルコール依存症などを合併することも多く、日常生活や社会生活に支障をきたすだけでなく健康にも影響を及ぼします。
少しでもPTSDかもと感じる症状があれば、早めに専門の機関に相談するようにしましょう。