メディコレNEWS|【医師監修】PTSDの克服のために
監修医師:伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
専門領域は精神科(心療内科)、精神神経科、心療内科、 美容皮膚科、産業医。
PTSDとは日本語でいうと心的外傷後ストレス障害といい、精神疾患の一つに分類されます。
トラウマとなるような強い衝撃を受けたことで、その時の記憶が繰り返し思い出され、ものごとに過敏に反応する、思い出させるような状況を避ける、否定的な感情を持つようになるなど、生活に支障をきたす状況が続くとPTSDと診断されます。
PTSDは時間の経過と共に症状が落ち着いていくこともありますが、放置しているとうつ病などの他の精神疾患を併発してしまうこともあるため、できるだけ早めに適切な治療を受けることが望まれます。
ここでは医師監修のもと、PTSDの症状や治療方法、治療費について詳しく解説しています。
PTSDとは
PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder)とは、生命に関わるような体験がトラウマとなり、生活に支障をきたすほどの症状を引き起こすことを言います。
PTSDの原因となる体験として次のようなものが挙げられます。
- 大きな自然災害
- 戦争
- 暴力
- 性被害
- 命に関わるような事故
- 虐待 など
ただし、内容的に同じような体験をしても感じ方には個人差があり、PTSDを発症する人もいれば発症しない人もいます。
また自分自身が直接体験しなくても、身近な人の衝撃的な体験に遭遇したことでPTSDを発症することもあります。
PTSDの症状
PTSDの診断基準となる症状は以下の通りです。
- 侵入症状
- 回避症状
- 思考や気分のネガティブな変化
- 過覚醒症状
これらの症状は、衝撃体験をした直後には誰でもあらわれるのですが、1カ月以上続き生活に支障をきたす場合にPTSDと診断されます。
PTSDの診断は精神科や心療内科などの医療機関で、主に医師による問診によって行われます。
PTSDの症状について詳しく見ていきましょう。
侵入症状
侵入症状とは、体験した衝撃的なできごとが繰り返し思い出され、その時と同じような感覚がよみがえる症状(フラッシュバック)を引き起こします。
関連性のあるものごとで衝撃体験を思い出し、体験時と同じような恐怖感を覚えることがあります。
回避症状
回避症状とは、トラウマ体験を思い出さないよう、そのことを考えたり話したりすることを避けるようになることです。
また、出来事を思い出させるような場所や状況を避けることもあります。
思考や気分のネガティブな変化
ものごとを否定的にとらえたり、興味・関心がなくなったり、人間不信に陥り周囲からの孤立を感じたりします。
トラウマ体験の核心部分を忘れてしまう解離性健忘や、うつ症状があらわれることもあります。
過覚醒症状
神経が過敏になり感情のコントロールが難しくなるため、怒りっぽくなったり破壊的な行動をとったりすることがあります。
睡眠障害(不眠や悪夢)や集中力の欠乏などがみられることもあります。
PTSDを克服するためには
PTSDでは、過去の衝撃的なできごとそのものよりも、今現在も恐怖を感じ続け、自分を責めたり他人を信じられなかったりするなど、ネガティブな感情が生まれることで自分を苦しめています。
PTSDを克服するためには、本人と周囲の人がPTSDについて理解を深め、適切な治療をして症状をコントロールできるようにすることが必要です。
PTSDの治療のゴール
PTSDの治療のゴールは、過去の衝撃的なできごとを思い出しても今の自分自身に被害が及ぶのではないと実感し、ネガティブな感情を修正することで、円滑な日常生活を送れるようにすることです。
そのために、症状を緩和しながらトラウマ体験に向き合えるような治療を行います。
PTSDの治療法
PTSDの治療法には大きく分けて、精神療法と薬物療法の2種類があります。
基本的には精神療法が第一治療として優先されますが、PTSDの症状が強い場合や、他の精神疾患の合併症がみられる場合などには、精神療法と並行して薬物療法が行われることがあります。
それぞれの治療法について詳しく解説していきます。
精神療法
精神療法はPTSDの中心的な治療法で、暴露療法やストレス管理法などがあります。
それぞれの治療法についてみていきましょう。
暴露療法
暴露療法では、PTSDの患者さんが避けている事柄をあえて想像させ、トラウマ体験に対して違った見方をすることで現実の恐怖感を軽減できるようコントロールします。
トラウマ体験に向き合うのは辛いことですが、避け続けていると悪循環に陥りなかなか普通の生活に戻れません。少しずつ恐怖感に慣れ、「トラウマ体験は過去のこと、今起こっていることではない」と理解できるようにすることが必要です。
セラピストと患者さんが信頼関係を築きながら、患者さんの負担にならないようペースを調整しながら慎重に行います。
ストレス管理法
ストレス管理法とはヨガや瞑想などをおこない、呼吸やリラクゼーションにより気持ちを落ち着かせ、不安の軽減をはかるものです。
薬物療法
PTSDの患者さんの不安やうつ症状を改善するために精神療法とあわせて、薬物療法が行われることもあります。
薬物療法では用いられる薬の種類は主に以下のようなものがあります。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
SSRIとは不安や恐怖感を和らげる抗うつ薬で、PTSDの薬物療法では第一選択の薬です。震えや動悸などの症状も軽減し、使用を続けることで再発予防にもつながります。
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
SNRIはSSRIと同じ、「抗うつ薬」に分類されます。SSRIの副作用が強い場合はSNRIに置き換えることも可能です。
非定型抗精神病薬
妄想やフラッシュバックなどの症状が強い場合には非定型抗精神病薬が用いられることもあります。
SSRIと組み合わせると高い効果を示し、気持ちを落ち着かせる効果が期待できます。
PTSDの治療費
PTSDの治療を精神科・心療内科などで行った場合の治療費の目安は以下の通りです。
PTSDの治療費目安(3割負担の場合)
初診費:約3,000~5,000円(検査費含む)
再診費:約1,000~2,000円
上記に加えて薬物療法が必要な場合には、薬代として約1,000~2,000円(2週間分)の費用がかかります。
また臨床心理士によるカウンセリングを受ける場合など、一部の治療においては保険が適用されず全額自己負担となることがあります。
PTSDは長期間の治療が必要なため、自己負担が1割、世帯収入に応じた上限金額の設定など医療費の助成制度があります。
治療費に関する不安がある方は、お住まいの市区町村の担当窓口(保健福祉課など)へ問い合わせてみましょう。
まとめ
PTSDは、大きな自然災害や命に関わる重大事故、性被害、虐待などトラウマ体験をした後に発症します。精神的苦痛が続き、仕事やコミュニケーションなど生活に支障をきたします。
PTSDを克服するためには、トラウマ体験を避けるのではなくきちんと向き合い、それは過去のできごとであって現在起こっていることではないと理解することが大切です。
PTSDの悩みは一人で抱え込まず、医療機関を受診し自分に合った治療を開始しましょう。