腰痛は何科を受診する?病院で行う腰痛治療と費用について
監修医師:甲斐沼 孟(国家公務員共済組合連合会 大手前病院)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。
腰痛は多くの日本人が経験しています。令和4年の国民生活基礎調査では、自覚症状の第1位が男女ともに腰痛でした。
特に働く年代での腰痛は大変身近なものでありますが、通院している人の数は全体の5位までにも入っていないという現状です。
腰痛は悪性腫瘍や感染、骨折といった重症な病気のサインとなることもありますので、症状がある場合には、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
この記事では、腰痛の症状がある場合は何科を受診するのが良いのか、さらに腰痛の治療や費用について、医師監修のもと詳しく解説していきます。
腰痛とは
腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版では、腰痛を①部位 ②有症期間 ③原因の3つ観点で定義しています。
部位
「腰痛」といっても痛みが発生する部位は腰だけではなく、臀部(お尻)から下肢にかけての痛みが伴う場合もあります。
有症期間
腰痛の症状が現れてからの期間に応じて、以下のように急性腰痛・亜急性腰痛・慢性腰痛の3つに分類されます。
- 急性腰痛:発症から4週間未満
- 亜急性腰痛:発症から4週間以上、3ヶ月未満
- 慢性腰痛:発症から3ヶ月以上続いている
原因
腰痛が起こる原因は非常に多岐にわたります。具体的には以下のような病気が原因となって発症することがあります。
- 脊柱(背骨)を構成する組織の病気
- 神経由来の病気
- 内臓由来の病気
- 血管由来の病気
- 心因性
- その他
このように「腰痛」といっても、その症状や原因は人によって異なります。
「ただの腰痛だから」と軽視してしまいがちですが、実は様々な疾患が隠れていることもあるため、気になる症状があれば一度医療機関を受診するようにしましょう。
腰痛の治療はどこで行う?
腰痛がある時に、何科に行くのが良いのか迷われる方も多いかもしれません。
前述の通り、腰痛は様々な疾患が原因となって発症していることが考えられますが、まずは整形外科を受診すると良いでしょう。
腰痛の中でも、医師の診察やレントゲン、MRI検査などで原因が特定できないものを「非特異的腰痛」と呼びます。
以前は、その非特異的腰痛が85%を占めているとされていましたが、2016年の報告によると「75%以上が診断可能で、非特異的腰痛は22%に過ぎなかった」と状況は逆転していました。(参考:腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版 (jcqhc.or.jp))
このように現在は多くの場合、整形外科を受診してきちんと検査を受けることで腰痛の原因は判明でき、それに合った治療を受けることができます。
さらに腰痛は、悪性腫瘍や感染、骨折といった重症な病気のサインとなることもあります。これらは病院でなければ診断・治療することができません。
整形外科・整骨院・整体院のちがい
前述の通り腰痛の診断や治療は主に整形外科で行われますが、実際に腰痛の症状がある時に整骨院や整体院へ行くという方も多いでしょう。
ここでは、整形外科と整骨院、整体院の違いについて解説していきます。
整形外科
整形外科では、医師による診察・検査・治療が行われます。
病気を診断し、診断書を作成できるのは整形外科の医師のみです。整形外科での治療は、ほぼ全てにおいて健康保険が適用されます。
整骨院
整骨院の施術者は医師ではなく、柔道整復師(国家資格)となります。
急性期のケガや骨折・脱臼の応急処置には、健康保険が適用されます。
その他、検査では異常なしと言われる痛みに対して、手技療法、電気療法、光線療法、温熱療法、運動療法、整復、固定などの処置が行われることもありますが、こちらは健康保険が適用されず、自費診療となります。
整体院
整体院の施術者は、整体師(国家資格ではない)や無資格の者となります。
骨盤矯正やもみほぐしなどの施術によって、体の歪みを整えて筋肉のコリや疲労を軽減させます。施術に健康保険は適用されません。
整形外科での腰痛治療と費用について
整形外科では、腰痛の原因に応じてさまざまな治療が行われます。
ここでは、整形外科で行われる主な治療方法と費用目安について解説していきます。
薬物療法
腰痛の治療において非常に重要なものが、薬物治療です。
腰痛の痛みを改善するために、内服薬や湿布薬が処方されます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が一番多く処方されていますが、長期使用すると、胃や十二指腸に潰瘍を起こすことがあります。
そのほか、アセトアミノフェンや筋弛緩薬、オピオイド、抗うつ薬も使用されます。
費用は、初診で約2,000〜5,000円、再診で約500〜2,000円となります。(3割負担の場合)
ブロック注射
ブロック注射とは、局所麻酔薬を腰部に注入することで、痛みを緩和させる治療方法です。
主に腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症など、神経の圧迫によって痛みが出現している場合に行われます。
一時的な痛み止めとしてだけでなく、継続して行うことで、神経の痛みを根本から治す効果があります。
費用は、診察費込みで5,000円程度となります。(3割負担の場合)
リハビリテーション(理学療法)
リハビリテーション(理学療法)は、慢性腰痛に有効とされており、主に体幹筋力強化とストレッチなどが行われます。
腰痛によって硬くなってしまった筋肉をほぐし、血流を良くすることで、痛みを軽減させる効果があります。
費用は、診察費込みで700〜1,500円程度となります。(3割負担の場合)
物理療法
物理療法は、患部の血流や筋緊張を改善して痛みを緩和させる治療方法です。
主に以下のような治療方法があります。
- 牽引療法
- 超音波療法
- 経皮的電気神経刺激
- 温熱療法 など
費用は診察費込みで500~1,000円程度となります。(3割負担の場合)
装具療法
装具療法とは、腹圧により腰回りを固定して、腰部の負担を軽減する治療方法です。
主にコルセットやベルト(サポーター)などを使用して、患部を固定し、腰痛の悪化を防ぎます。
既製コルセットを使用した場合の費用は約3,000〜10,000円、コルセットを作成した場合、約30,000円となります。
コルセット等の購入は保険の給付対象となるため、お住まいの自治体またはご加入の健康保険組合に申請すると、3割負担の人は7割支給されます。
手術
以下のようなケースでは、手術が検討される場合があります。
- 他の治療方法では症状の改善がみられない
- 足の痛みやしびれで歩ける距離が短くなった
- 足に力が入らない
- 排尿障害が出てきた など
腰痛の手術は、全身麻酔で行うものから、内視鏡を使用した低侵襲のものまであります。特に低侵襲のものは局所麻酔で、20分程度で終了し日帰りできることもあります。
手術の費用は行う手術の方式によって大きく異なりますが、15~80万円程度となります。なお入院の場合は、入院の場合は、その他ベッド代、食事代などの費用が必要です。
高額療養費制度が利用できるため、お住まいの自治体またはご加入の健康保険組合に申請すると、自己負担上限額を超えた分の給付が受けられます。
まとめ
腰痛は、日本人の自覚症状第1位となっていますが、適切な治療を受けていない方が多いという実情があります。
腰痛は悪性腫瘍や感染、骨折といった重症な病気のサインとなることもあるため、気になる症状があれば放置せず、早めに適切な検査・治療を行うことが重要です。
以前に比べ、整形外科における検査で診断がつく症例が多くなっているため、何科を受診しようかと迷った時には、まず整形外科を受診してみましょう。
必要な検査を受けることで腰痛の原因が判明し、それに合った治療を健康保険適用で受けることが可能となります。