日本でフッ素フリー(フッ素が入っていない)歯磨き粉は流行るか?

2024.09.17

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監修医師:竹本 竜太朗(北海道大学病院歯科診療センター)
北海道大学歯学部 卒業 / 現在は北海道大学病院歯科診療センター勤務 / 専門は歯科矯正科

1.そもそもフッ素とは

フッ素は、自然界では岩石や水、食物などに微量に含まれています。その存在は非常に広範囲にわたり、特に水に溶けやすいため、地球上の多くの場所で自然水にフッ素が含まれています。フッ素は化学的に非常に反応性が高く、他の元素や化合物と容易に結合します。この特性を利用して、歯のエナメル質の補強に役立つとして、歯磨き粉や水道水の添加物として使用されています。

また、フッ素は20世紀初頭にアメリカで水道水への添加が始まりました。この時期には、特定の地域で自然にフッ素濃度が高い水を飲む人々に虫歯が少ないことが確認され、これがフッ素の虫歯予防効果に対する研究の始まりとなりました。その後、多くの研究を経て、フッ素は虫歯予防の重要な要素として広く認識され、世界中で使用されるようになりました。

2.フッ素がデンタルケアにおいて期待される効果

フッ素はデンタルケアにおいて、特に虫歯予防の観点から非常に重要な役割を果たします。具体的には、フッ素が歯のエナメル質に取り込まれることで、エナメル質が強化され、酸に対する耐性が高まります。これは、口内に存在する細菌が食物の糖を分解して酸を生成し、その酸が歯を溶かすプロセス(脱灰)を防ぐ効果があります。また、フッ素は既に発生した初期の虫歯(脱灰部分)を再石灰化することで、歯の修復を助けます。

さらに、フッ素は口腔内の細菌の活動を抑制する効果もあります。具体的には、フッ素が細菌の酵素活動を阻害し、酸の生成を抑えることが知られています。このように、フッ素は虫歯の進行を防ぐだけでなく、口腔内の健康全般に寄与する多面的な効果を持っています。そのため、フッ素入りの歯磨き粉は多くの歯科医師や専門家から推奨され、日常のオーラルケアに欠かせないものとなっています。

3.日本で認められているフッ素の許容量

日本におけるフッ素の使用は、厚生労働省や関連機関によって厳しく規制されています。特に飲料水に含まれるフッ素の濃度については、上限が0.8mg/Lと設定されており、これは国際的な基準に基づいたものです。この基準は、フッ素が歯に対して有益である一方で、過剰摂取による健康リスクを回避するために設定されています。

例えば、フッ素を過剰に摂取すると、歯のフッ素症(エナメル質が白く濁ったり、斑点状に変色する)や、骨の異常が引き起こされる可能性があります。

また、歯磨き粉に含まれるフッ素に関しても規制があり、日本では市販されている多くの歯磨き粉が1000ppm以下のフッ素を含んでいます。これは、一般的な使用量ではフッ素の許容量を超えることがないように設計されています。実際、最近では1000ppmを超えるフッ素が含まれた歯磨き粉も販売されておりますが、たとえば6歳未満には避けるように推奨されたりもしております。

また、フッ素入りの歯磨き粉の使用方法についても、適切な量を使用し、飲み込まずに吐き出すことが推奨されています。

日本のフッ素に関する規制やガイドラインの詳細については、厚生労働省のウェブサイトで確認することができます。

4.通常の生活でフッ素の許容量を超える?

通常の生活において、フッ素の許容量を超えることは極めて稀です。日本では飲料水中のフッ素濃度が厳格に管理されており、また市販の歯磨き粉に含まれるフッ素濃度も規定されています。そのため、一般的な生活を送る中で、フッ素の過剰摂取が問題となるケースはほとんどありません。

ただし、特定の状況下では注意が必要です。例えば、乳幼児が歯磨き粉を誤って大量に飲み込んでしまった場合、フッ素の過剰摂取が懸念されることがあります。このため、子ども用の歯磨き粉はフッ素濃度が低めに設定されており、また適切な使用量が明示されています。また、フッ素濃度の高い水を長期間にわたって飲用し続けた場合にも、フッ素症のリスクが高まる可能性がありますが、これは日本の水道水の管理下ではまず考えにくいことです。

実際、フッ素症が問題となるのは、天然のフッ素濃度が高い地域に住む人々であり、そのような地域では飲料水に含まれるフッ素濃度が高いため、特別な対策が必要とされています。日本国内では、こうしたリスクはほとんどなく、適切な使用方法を守る限り、フッ素の恩恵を安心して享受することができます。

5.欧米でフッ素フリーの歯磨き粉が人気の理由

欧米では、近年、フッ素フリーの歯磨き粉が人気を集めています。この背景にはいくつかの要因があります。

まず、冒頭でも触れたように、アメリカなどでは、多くの地域で水道水にフッ素が含まれており、日常的にフッ素に触れることが多いため、過剰なフッ素の摂取を気にする人たちが一定数いることが上げられます。

その延長として、水道水にフッ素の安全性に対する懸念が一部の消費者や健康志向の強い層の間で高まっていることが挙げられます。特に、フッ素の過剰摂取による健康リスクに関する研究が注目され、フッ素を避けたいというニーズが増えてきました。

また、自然志向やオーガニック製品の需要が高まっていることも、フッ素フリー歯磨き粉の人気に寄与しています。欧米では、健康や環境に配慮した商品が市場で支持されており、フッ素フリー歯磨き粉もその流れの一部とされています。これに加えて、口腔ケアにおいても、化学物質を避け、自然由来の成分を好む消費者が増えており、その結果、フッ素を含まない歯磨き粉が選ばれるようになっています。

さらに、インフルエンサーや有名人がフッ素フリー製品を推奨することで、こうした商品の人気がさらに加速しているという側面もあります。彼らの影響力により、フッ素に対する懸念が広まり、特に健康志向の若年層を中心にフッ素フリー製品が浸透しています。このような背景から、欧米ではフッ素フリーの歯磨き粉が市場を拡大しているのです。

6.まとめ:日本ではなかなかフッ素フリーの歯磨き粉が流行るのは難しそう

日本においてフッ素フリーの歯磨き粉が流行する可能性は低いと考えられます。その理由として、まず日本ではフッ素入りの歯磨き粉が虫歯予防に非常に効果的であると広く認識されており、消費者の間で高い信頼を得ていることが挙げられます。また、日本のフッ素に関する規制が厳しく、フッ素入りの歯磨き粉を使用しても安全性が十分に確保されているという安心感が根強くあります。

さらに、日本の消費者は新しいトレンドに対して慎重であり、特に健康に関わる製品については、長年の信頼に基づいた選択を好む傾向があります。欧米でフッ素フリーの歯磨き粉が人気を博している背景には、フッ素に対する懸念や自然志向の高まりがありますが、日本ではこうした懸念が広がる土壌が少ないため、フッ素フリーの製品が主流になるのは難しいでしょう。

また、日本の歯科医療界でも、フッ素の有効性が支持されており、歯科医師がフッ素入り歯磨き粉の使用を推奨するケースが多いため、消費者がフッ素フリーに転向するきっかけが少ないという現状もあります。総じて、日本では今後もフッ素入りの歯磨き粉が主流であり続けると予想されます。