「丁寧な説明通じて満足度を上げる」 皮膚科専門医・本橋尚子ドクターの思い

2024.02.22

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株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、医療法人社団明海皮ふ科の本橋尚子先生にお話しを伺いました。

Profile
本橋 尚子
東京医科歯科大学医学部を卒業し、現在は医療法人社団明海皮ふ科で理事長を務める。アトピー性皮膚炎が専門。皮膚科専門医と認定産業医の資格を持つ。

目標は「クリニックを閉じること」!? 皮膚科専門医の思いとは

――本日はお時間いただきありがとうございます!早速ですが、本橋先生が医者を志したきっかけを教えてください。

本橋先生 私は幼少時に東南アジアで過ごしていたのですが、小学校1年生で日本に帰国した時に生活水準や文化の違いに驚きました。技術が発展した日本に対して、私が住んでいた東南アジアは道路も舗装されておらず、医療の質も低かったと思います。その後、環境に流されるまま中学受験して入った学校は、学年の半分弱が医学部に進学する進学校で、その影響で医学部に進学することにしました。医学部進学を志した時には、いずれ東南アジアに戻って、医療が行き届いていないところに、しっかりとした医療を届けたいと思っていました。しかしその後、日本の中でも医療が届いていないところがたくさんあることを知りました。皮膚科に関していうと、千葉県では訪問診療をする医師が10名前後しかいません。その1人として、家から出ることができない患者さんの診療を使命感を持ってやっています。

――医師を志したきっかけは周囲の影響が大きかったんですね。ただその後は訪問診療をする皮膚科医としての使命感を身につけて行ったということですが、ご自身の専門を皮膚科に決めたはきっかけは何だったのでしょうか?

本橋先生 実は、大学に入学した時には産婦人科医を希望していたんです。ところが、私は医学部6年の時に結婚し、妊娠をしました。私の夫はバリバリの外科医でしたので、子供をワンオペで育てながら産婦人科の研修医をするのは厳しすぎると考え、志望を変更しました。改めて進べき診療科を考えている中で、皮膚科が最も扱う臓器が大きく、疾患も多岐に渡るので、面白そうだなと思ったんです。実際に皮膚科医になってみると、思った以上に皮膚科は奥深いことがわかりました。今でもわからないことがたくさんあって、面白さに魅了され続けてています。

――子育てをしながら医師になったというのは、相当大変だったと思います。苦労されながらも皮膚科医の道に進まれましたが、普段の臨床ではどのようなことに気をつけているんでしょうか?

本橋先生 きちんと説明、理解していただけるように外来の人数を減らし満足度を上げることをモットーにしています。疾患の概念や薬の塗り方などを説明すると、「初めて教えてもらいました」と言われることも度々あります。同じ薬でも使い方を変えて症状が良くなると、うれしく思います。また、訪問診療の患者さんの中には、現役で活躍していた時には高い地位だった方もいます。最も鮮明に記憶しているのが、ある国際的に活躍されていた患者さんのことです。その方は、亡くなる直前まで英語の資料や新聞を読み、診察のたびに国際情勢を解説してくれました。ちょうどオバマ氏が大統領になるかという時期で「アメリカ社会はまだ黒人を受け入れるほど成熟していないだろう」と言っていたのですが、その後オバマ氏が大統領になり「自分が考えるより早くアメリカ社会は変化していた、見識が足りなかったことに謝罪します」と遺言を残されました。それ以来医療以外のことも勉強するよう努力しています。

――説明を大事にされているんですね。臨床の際に注意していることはありますか?

本橋先生 そうですね、医療が完全でないということをちゃんと認識する、ということでしょうか。この考えを前提にしつつ、患者さんごとに最善の策を探ることが大事だと思っています。そして、この最善の策を探す過程を、しっかりと患者さんと共有することが重要です。患者さんと情報をしっかり共有する、治療の内容について理解をしてもらうことで、患者さんも色々と工夫をし、その結果を私に教えてくださる方もたくさんいるんです。皮膚は患者さん自身も見える臓器ですからね。

――治療の説明、そして情報共有をしっかりすることで、患者さんに主体的に考えてもらうことができているんですね。先生は、現在チャレンジしたいことはありますか?

本橋先生 今チャレンジしたいことは、chatGPTを医療現場でどう活用するか、ですかね。私は病院の経営者でもあるので、診療報酬が横ばいになっていたり、医療材料費が高くなっているという現状を踏まえると、人件費をどこまで削れるか、ということが重要になってきます。医療の質を落とさずに、なるべく多くの患者さんを診療する方法を常に模索しています。医療過疎地域では、特に土曜日は予約開始してから2〜3分ですべての枠が埋まってしまうこともあります。予約をとれないことで診察できず、かなり悪化した状態から治療が始まるという悲劇を少しでも減らしたいと考えています。

――先生が臨床を通じて目指すものはなんですか?

本橋先生 私の目標は、今理事長として働いているクリニックを閉じることなんです。

――クリニックを閉じること、とはかなりユニークな目標だと思うのですが、その心を教えていただけますか?

確かに、いきなり聞くとびっくりされるような目標ですよね。しかし、これにはちゃんと理由があるんです。私は、特に慢性疾患においてですが、患者さん自らが自分の皮膚に起こっていることを理解できる状態にすることが大事だと思っています。しっかりと患者さんに対して、疾患についての知識や薬についての知識を私が伝えることで、自らが理解できるレベルにすることができると思うんです。そうなると、私は患者さんに必要な薬をただただ処方する状況になります。アメリカのようにOTC = Over-the-Counterになれば、クリニックが不要となりますよね?そうなれば私は、喜んでクリニックを閉じて、転職したいと思っています。

読者の方へ伝えたいメッセージ

――最後に、ここまで読んでいただいた方に伝えたいメッセージをお願いします。

本橋先生 皮膚は良くなっているかどうかが目で見えるので、簡単と思われがちです。しかし、多種の細胞から構成される奥の深い臓器なんです。そこで起こっていることを少しでもわかりやすく説明できるよう日々努力しています。