「患者に医療の主導権を持ってもらう」オンライン診療医・ 田頭秀悟ドクターの思い

2024.02.01

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株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、たがしゅうオンラインクリニックの田頭秀悟先生にお話しを伺いました。

Profile
田頭 秀悟
2005年に鳥取大学医学部を卒業。初期・後期研修を経て、脳神経内科の道に進む。2011年12月に糖質制限食という食事療法に出会い、自身の劇的な減量(10ヵ月で30kg減)やうつ病の克服経験を通じて、医者中心の医療から患者中心の医療への転換の必要性を痛感。2019年10月より患者主導の「主体的医療」の普及を目指し、オンライン診療の専門クリニック、たがしゅうオンラインクリニックを開業し、新たな医療の可能性に挑んでいる。保有資格は、日本東洋医学会専門医、日本医師会認定産業医。

「『主体的医療』普及が最大のチャレンジ」オンライン診療医の思い

――本日はお時間いただきありがとうございます!早速ですが、田頭先生が医者を志したきっかけを教えてください。

田頭先生 正直に言うと、実はこれという明確な理由があって医者になったわけではないんです。親族に医者はいませんでしたし、命の大切さを意識するような感動的な過去があったわけでもありません。ただなんとなく医療という仕事には魅力を感じていました。それに勉強に真面目な性格で、もうちょっと頑張れば医学部に手が届く成績だったので、ちょうど良い目標設定だったのだと思います。強いて言えば、中学生の時に祖母が骨折で入院したことがあって、そのお見舞いに行った際に何もできない無力感を感じるという出来事がありました。その時、子供なりに自分の中で色々考えたことをぼんやりと覚えています。今振り返れば人の助けになりたいと願う気持ちの芽生えだったのかもしれません。

――中学生の時に感じた無力感が、人助けの気持ちを生む原動力になったのですね。現在の診療科に進んだきっかけは何だったのでしょうか?

田頭先生 医師になった当初、私は「町の頼れるお医者さん」になりたいと望んでいました。逆に言えば「この病気は私の専門外だから診られないね」などと断るお医者さんにはできるだけなりたくなかったんです。こうした思いから、総合診療医と呼ばれる全領域にまたがった診療を専門とする医師になることを目指していました。しかし、総合診療医の研修は、医師の中でも非常に優秀な人達が切磋琢磨し合うような厳しい環境で行われていました。彼らの凄まじいペースについていけなかった私は、そこで挫折を感じることになりました。しかし、だからといって総合診療マインドを捨てきれなかった私は、どうすべきかを悩んだ結果、比較的全身を診ることにつながりやすい診療科として脳神経内科を専門にすると決めました。

――総合診療マインドを活かすことができる脳神経内科に進まれたのですね。現在はオンライン診療によるクリニックを開業していますが、普段の臨床では、どのようなことをしていますか?

田頭先生 ご質問でも触れていただいたように、私の今の肩書きは「オンライン診療医」です。ビデオ通話ツールを使って、患者さんの抱える症状や悩みについて細かく聞き、自分にわかることを患者さんへお伝えするというのが基本的な診療スタイルです。当然得られる情報には限りがありますが、その中で考えうる患者さんにとって助けとなる治療の選択肢をできる限り複数提案し、患者さんに選んでもらうようにします。通常の対面診療との決定的な違いは必ずしも病名にはこだわらないということです。逆に言えば、病名がわからなくても、できることを徹底的に提案します。例えば、食生活の修正助言、ストレスとなる思考習慣の指摘や改善提案、緊急性の有無判断、場合によっては病名ではなく症状に応じて選んだ漢方薬を患者宅へ発送することもあります。

――臨床の際に大事にしていることはありますか?

田頭先生 総合診療、すなわち何でも診ようという気持ちからスタートした私の医師人生でしたが、紆余曲折あって、今の私が一番大事にしているのは「患者に医療の主導権を持ってもらう」ことです。言い換えれば、「医師が全ての病気を診られるようになること」よりも、「患者が自分の頭で病気や治療のことについて考えられるようになること」の方がはるかに重要なことだと思うようになりました。今や医療の知識は複雑化して、患者さんからは「素人だからわからない」という言葉を聞くことも増えましたが、複雑な情報を分かりやすく伝え、患者さん自身に自分の病気や治療について考えてもらえるように支援することも医師の大事な仕事だと思うのです。逆に言えば、今の医療はその仕事が足りていないからこそ「お医者様にお任せ」してしまう患者が後を絶たないのではないかとさえ思います。

――情報をわかりやすく伝えることで患者に医療の主導権を持ってもらう、ということですね。先生は、現在チャレンジしたいことはありますか?

田頭先生 患者自身が病気や治療について自分の頭で考えて行動し対処する医療のことを私は「主体的医療」と勝手に名付けているのですが、この「主体的医療」を普及させるための仕組みづくりが今の私の最大のチャレンジです。オンライン診療に注目したのも、この診療形式であれば患者側の医者への依存心が少なくなり、患者の主体的な改善行動を促しやすいからと考えたからです。しかし、必ずしもオンライン診療を受診する人が主体的な行動変容を希望するとは限りませんし、うまく行ったとしても私がいなくなったら消滅するような形式であれば仕組みとして残りません。そこで今、「主体的医療」を学び合うオンラインコミュニティを運営し始めました。将来的にここでの仕組みが色々なところへ広まっていくことを私は望んでいます。

――先生が臨床を通じて目指すものはなんですか?

田頭先生 大袈裟に思われてしまうかもしれませんが、私は医療の構造を変えようと目指しています。今の医療は一言で言えば「お医者様にお任せ医療」となってしまっていますし、ほとんどの慢性疾患は「終生通院が前提」となっています。これを私は「患者主導の主体的医療」に変化させ、少なくともその選択肢があることをより多くの人達に伝えることで、たとえ慢性疾患であっても「病気からの卒業」を目指す医療に変えていきたいと強く願っています。そのためには医療者側の努力もさることながら、何よりも患者側の主体的な意識改革を促すこと、それを支援する仕組みづくりが必要不可欠だと感じています。

読者の方へ伝えたいメッセージ

――最後に、ここまで読んでいただいた方に伝えたいメッセージをお願いします。

田頭先生 「頭の良いお医者さんが考えるような難しい病気の知識を、患者が自分の頭で考えて行動するなんて到底無理!」と思われた方、少しだけ想像してみて下さい。確かに難しいと思われるのは無理もありませんし、お医者さんに任せた方が適切な判断になると思われる気持ちも理解できます。でも、もしそこで病気の知識についてゆっくりと時間をとって噛み砕いて説明してくれる医師がいたら。相手の価値観を頭ごなしに否定することなく、多様な価値観を認め、一緒に悩みに向き合ってくれる仲間がいたとしたら。 特に今の医療の在り方に疑問を感じている人には「主体的医療」という選択肢もある、ということを是非知ってもらえればと思います。よかったら私が運営する「主体的医療」を学び合うオンラインコミュニティ、主体的医療ダイアロジカルスクールへ遊びに来て下さい。いつでもお待ちしております。