「患者が納得する医療を提供する」 乳腺専門医(指導医)・和田真弘ドクターの思い
株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、宇都宮セントラルクリニックの乳腺外科部長、和田真弘先生にお話を伺いました。
Profile
和田 真弘
新潟大学を卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室入局し研修を受ける。慶應義塾大学で一般・消化器外科のチーフレジデントを務めた後、川崎市立川崎病院外科副医長や佐野厚生総合病院外科・乳腺外科部長などを歴任。2023年4月から宇都宮セントラルクリニックの乳腺外科部長を務めている。
「患者が納得する医療を提供する」患者さんの不安を解消することに力を入れる理由
――本日はお時間いただきありがとうございます!先生は2023年4月から宇都宮セントラルクリニック乳腺外科の部長に就任されていますが、そもそも医者を志した理由を教えてください。
和田先生 私のキャリア決定については、父の存在がとても大きかったです。私自身は、小学生の頃、元々は飛行機のパイロットや証券マンになろうと思っていたんです。ところが、私が小学6年生の時に父に相談すると、「あり得ない」と一蹴されてしまいました。そこから改めてキャリアについて考え直した結果、中学生になる時には医学部に進学しようと考えるようになりました。
――お父様の意見ということがかなり強い影響力を持っていたのですね。
和田先生 当時は、栃木県佐野市に住んでいましたが、都内の私立のような中学校がなく、公立中学に通っていました。私の父はスパルタに近い教育熱心な人でしたので、当時の私は黙々と父のタスクをこなしていました。
――現在の診療科に進んだきっかけはどういったものだったのでしょうか?
和田先生 私は、医学部に進んだ当初から外科医になりたいと考えていました。最終的に決めたのは、医学部の5、6年生の頃で、最後まで一般・消化器外科と脳外科とで迷っていました。私は新潟大学出身ですが、卒後は慶應義塾大学外科学教室に研修医で行くことを決めていました。慶應義塾大学病院で、いわゆる上級スタッフになるためには、その当時は他大学出身の場合は困難なことが多い時代でした。脳外科の場合は、大学のスタッフでないと神経膠芽腫のような脳腫瘍の手術ができるチャンスは少ないんです。一方で、一般・消化器外科であれば、生体肝移植を除けば、大学病院スタッフでなくても、関連病院で大学とほぼ同内容のたくさんの手術をすることができるのです。こうした状況を鑑みて、一般・消化器外科に進むことを決めました。
――なるほど、そこまで考えて選ばれたのですね。慶應義塾大学に進むことを決めた理由は?
和田先生 実はこの進路決定にも父の意向が大きく関与しています。地元では慶應義塾大学の関連病院が多いので、慶應義塾大学を出た後に慶應関連の地元の病院で働くことを逆算して、決めていった形です。
――地元に戻って医療を行うことが最初から念頭にあったのですね。現在のクリニックでは、どのようなことを行なっているのでしょうか?
和田先生 現在所属している宇都宮セントラルクリニックでは、乳がんの診断をメインにしています。診断は画像診断と針生検による病理診断の2種類がありますが、その両方を行っています。検診については地域性が出ると感じていて、以前働いていた佐野市に比べると、クリニックがある宇都宮市は、病気に対しての意識が高い人が非常に多いと感じています。クリニックの代表医師の佐藤 俊彦先生は、画像診断ならびに放射線治療に関する最新機器の導入に、非常に積極的です。加えて、オンライン問診やオンライン診療などデジタルの仕組みの導入もとても前向きです。
――クリニックで乳がんの診断を行うときに、先生が大事にしていることはありますか?
和田先生 私が大事にしていることは、「説明と患者の理解」です。検診を行った後に、「大丈夫ですよ、乳がんありませんよ」、と単純に報告するだけでは不十分だと考えています。クリニックでは画像診断に力を入れているので、導入している機器も最新のもので、とても綺麗な画像とともに、詳細な結果レポートが返ってきます。レポートを読み上げるだけではなく、実際の患者さん自身の画像を供覧しながら、問題ない状態であることを説明しています。さらに、画像だけの説明では、医療者ではない患者さんには理解しにくいところが当然あります。そのために、画像を供覧し説明した後に、医師としての所見を、易しい言葉に置き換えたわかりやすい患者さん用のプレゼン資料をパワーポイントで作っています。それを実際の画像と照らし合わせながら、説明を追加していく形式をとっております。
反応は2つに分かれて、感謝されることもあれば難しすぎる、細かすぎるという批判を受けることもある。
――患者さんごとにパワーポイントで資料を作るのは大変な作業ですね。患者さんの反応はいかがでしょうか?
和田先生 反応は2つに分かれます。1つは、わかりやすいと感謝していただけるパターン。もう1つは難しすぎる、細かすぎると言われることがあります。
――ネガティブな反応があることもあるのですね。それでも資料を作ることには何か理由があるのでしょうか?
和田先生 私がこれまで過去に失敗したこともあるから行っているんですよね。大学病院で働いていた頃は、数を捌かないと業務が終わらない状況でした。そういう状態だと、患者さんの理解が不十分なまま進むことがあり、後で患者さんから怒られることもありました。結果的には改めてご説明を行うことになるので、二度手間になっていたんです。精神的にもストレスがかかりますので、それであれば最初から丁寧に説明した方がお互いにとって良いと思うようになりました。失敗から学んだ習慣ですね。
――これまでの経験に基づいた結果ということですね。先生は最近注目していることはありますか?
和田先生 医学的な興味ですと、今は乳がん検診に注目をしています。今まで私のキャリアでは、治療がメインでしたので、結果論として検診を軽視していたようにも思っています。当たり前のことですが、早期発見は患者にとって大きなメリットがあります。早い段階で見つけることができれば、つらい抗がん剤を必要とせずに済むことがあります。社会全体を俯瞰しても、社会保障費が上がっており、日本全体の持続可能性が問題にあっています。検診で早期発見することは、医療費を安くするにもつながることですので、乳がん検診の普及に注目をしています。
――医学的な興味以外では、関心事はありますか?
和田先生 医学以外に興味を持って勉強する時間が増えたましたね。病院勤務からクリニック勤務になったことで、夜間の緊急手術に呼ばれなくなりました。時間的に余裕が出たので、興味がある分野の学び直しをしています。歴史の勉強や、経済の勉強など、リベラルアーツと言われる分野が中心です。医療以外のことを勉強すると、患者との対話にも有効活用できていると感じています。
また、私は現在52歳なのですが、意識的に30〜40代の若い先生とお付き合いすることを心がけるようになりましたね。年齢に関係なく、フラットな関係で会話や勉強をしています。若い先生の話を聞き、そこから学んでいくことが、50代の医師にとっては大事なことの1つだと思います。
――和田先生のVISIONについて教えてください。
和田先生 私は、患者さんに対して「納得してほしい」という思いを強く持っています。患者さんは、心配や不安な気持ちをかかえて病院に来ます。患者さんが罹っている病気がどういうものか、正しく理解できないと不安な気持ちが強くなると思います。こうした患者さんの不安を解消するために、患者さんが「腹落ち」できる説明をしたいと考えています。特に、専門的な内容を、より簡単な言葉にすることが大事です。こうした思いがあるので、私のVISIONは「患者が納得する医療を提供する」ですね。
――これから乳腺外科の受診を検討している方にメッセージはありますか?
和田先生 最初にお伝えしたいことは、心配事があったら自分で抱えないでください、ということです。ネット検索をする前に、まずは乳腺専門医を受診してほしいですね。患者さんがネット検索で必死になって、自分の病気や症状を知ろうとする場合、誤った情報やご自分に都合のいい情報のみを無意識に得てしまう可能性があります。ですから、まずは乳腺専門医に相談いただくことを意識していただけると有り難いです。