入浴が高齢者の「うつ」を予防する?最新のうつ病予防研究を解説【東京都市大学など】

2023.08.23

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監修医師:岡本 浩之(医療法人幸啓会 北本心ノ診療所)
2003年3月 東京大学医学部 卒業後、東京大学医学部附属病院 精神神経科に入局。 2011年4月 北本心ノ診療所 開院。専門は精神科(心療内科)。

うつ病は年齢や性別にかかわらず、誰しもがなりうる病気です。

一般的にうつ病は男性よりも女性に多く、男性では働き盛りの40代女性では40代および高齢期にさしかかる60~70代で多くみられる傾向があります。

特に超高齢社会を迎える現代は、これまで以上に高齢者のうつ病が増加していくことが懸念され、高齢者のうつ病予防に関する研究が進んでいます。そこで今回は高齢者のうつ病の特徴や、高齢者のうつ病予防に「入浴」が効果的だという最新の研究についてご紹介します。

高齢者のうつ病について

一般的に65歳以上の高齢者のうつ病は「老人性うつ」と呼ばれます。

老人性うつの大きな問題点の一つに、認知症との見分けが困難なことが挙げられます。

老人性うつでは、しばしば認知症と似た症状がみられ、また家族や周囲の人も「年のせいだから」とうつ病の症状を見逃してしまうこともあります。

老人性うつは、通常のうつ病と同様に適切な治療を受けることで回復が見込める病気です。そのため、うつ病が疑われる症状がある場合は、早めに精神科を受診し、専門家の診断・治療を受けることが重要です。

うつ病とは

そもそも「うつ病」とはどのような病気でしょうか。

うつ病は気分障害に分類される病気の1つであり、メンタル的な症状(気分の落ち込みや意欲の低下など)と、身体的な症状(眠れない・体がだるい)が現れることが特徴です。

うつ病の代表的な症状は以下の通りです。

  • 気分の落ち込み
  • 意欲の低下
  • 集中力・判断力の低下
  • 睡眠障害
  • 自責思考・希死念慮 など

生涯のうちに約6%の人がうつ病を経験するといわれており、決して珍しい病気ではありません。

十分な休養と適切な治療(薬物療法、精神療法など)を受けることで、症状の改善が期待できるため、気になる症状があれば、できるだけ早めに専門家に相談することが大切です。

高齢者のうつ病の特徴

高齢者のうつ病の中核症状は、それ以外の年代のうつ病と同じく「抑うつ気分と興味・喜びの喪失」です。これに続く中核症状は、高齢者の場合は「自殺念慮、悲観」成人早期の場合は「易疲労感や食欲の変化」という違いがあります。
(参考:【日本うつ病学会】高齢者のうつ病治療ガイドライン (secretariat.ne.jp)

また上記以外にも、高齢者のうつ病では以下のような特徴がみられることが多いです。

  • 身体症状を伴うことが多い
  • 環境的要因・心理的要因の影響が大きい
  • 薬剤の影響が出やすい
  • 自殺のリスクが高い
  • 不安や落ち着きのなさが目立ちやすい

うつ病を発症する原因はいまだ解明されていないこともありますが、一般的に①環境的要因 ②心理的要因 ③身体的要因 の3つの要因があるといわれています。

特に高齢者の場合は、パートナーや身近な人との死別、退職などに伴うライフスタイルの変化、子どもの独立など、環境の変化によりうつ病を発症するケースが多くみられます。

またうつ病以外の別の病気が原因となり、うつ病を合併してしまうこともあります。

高齢者のうつ病予防の重要性

高齢者のうつ病はさまざまな疾患リスクを高め、要介護認定の危険因子になりうるといわれています。

近年では、高齢者のうつ病は認知症との合併が多くみられたり、またうつ病から認知症に移行しやすいということも分かってきました。

認知症の初期症状としてうつの症状が出現する場合もあれば、うつ病の発症により認知症を引き起こすこともあります。

人生100年時代、心身ともに健康で長生きするためには、うつ病の予防が重要だといえるでしょう。

一般的に、うつ病の予防のためには以下のような生活習慣を心がけることが重要だといわれています。

  • ストレスをため込まない
  • 十分な休息をとる
  • 規則正しい生活をする
  • 適度な運動を行う など

そして高齢者のうつ病予防について、東京都市大学の早坂教授らは、毎日の入浴がうつ病の発症リスクを下げる可能性があることについて、発表しました。

ここでは、高齢者のうつ病予防に関する最新の研究をご紹介します。

毎日の入浴で「うつ」を予防できる?最新研究を紹介

今回紹介する研究は、東京都市大学の早坂教授らによる研究グループが実施した、6年間にわたる大規模な横断研究についてです。

研究概要

東京都市大学が2023年7月24日に発表したプレスリリースによると、毎日浴槽入浴することで高齢者のうつ発症を予防できる可能性があることが分かりました。

同研究グループは、生活習慣としての浴槽入浴が長期うつ病の発症予防に役割を果たしているかどうかを明らかにすることを目的に、6年間にわたる大規模な横断研究を行いました。

調査対象となった11,882人のうち、自立していて、かつ老年期うつ病のリスクがない6,452人(夏の入浴頻度の情報のある人)および6,465人(冬の入浴頻度の情報がある人)を対象に解析を行いました。

参加者を週0~6回入浴するグループと、週7回以上入浴するグループに分け、6年後にうつ病を発症した人の割合を比較した結果、週0~6回浴槽入浴する人と比べて、週7回以上浴槽入浴する人の6年後のうつ罹りやすさ(オッズ比)は0.76倍で、週7回以上浴槽入浴していると回答した人でうつ発症のリスクが有意に低く、毎日浴槽入浴することで高齢者のうつ発症を予防できる可能性があることが分かりました。

グラフ, 棒グラフ

自動的に生成された説明

(画像引用:東京都市大学プレスリリースより)

研究結果からわかること

この研究により、浴槽に頻繁に入浴する高齢者は、うつ病を新規発症する可能性が低いことが分かりました。

さらに夏と冬を比較すると、冬に頻繁に浴槽に入る高齢者の方が新規発症型うつ病の発症率が低いことが示されました。

このような結果となった要因としては、入浴により自律神経のバランスが整ったこと、また入浴により睡眠の質が向上したことなどが考えられるとのことです。

これらの結果を踏まえ、高齢者のうつ病発症を予防するためには、できるだけ毎日、浴槽入浴をすることが勧められるといえるでしょう。

※この研究は、2023年7月24日に「日本温泉気候物理医学会雑誌 J-STAGE」に掲載されました。https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki/advpub/0/advpub_2359/_pdf/-char/en

まとめ

日本人は古くから入浴の習慣があり、入浴と健康の関連についてはさまざまな研究が行われてきました。その中でも今回の大規模調査では、浴槽入浴がうつ発症の予防につながる可能性があることが初めて分かりました。

高齢者のうつ病は、さまざまな疾患リスクを高めるだけでなく、要介護認定の危険因子となります。心身ともに健康で長生きするためにも、毎日の入浴によりうつ病の発症を予防することが効果的だといえるでしょう。