【医師監修】胃がんの原因「ピロリ菌」の検査と除菌治療について

2023.06.20

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監修医師:中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)
兵庫医科大学卒業。米国内科学会上席会員、日本内科学会総合内科専門医などの資格を保有。
主な研究内容・論文は「生活習慣関連因子と大腸カプセル内視鏡検査」。

胃がんの最大の要因である「ピロリ菌」。ピロリ菌に感染したまま放置していると、次第に慢性胃炎や胃潰瘍、そして胃がんを発症することがあります。

日本では少なくとも3000万人以上がピロリ菌に感染しているといわれています。しかしながらピロリ菌に感染している方の多くは、適切な検査や治療を受けていない状況です。(参考 ピロリ菌に関するQ&A|ピロリ菌関連情報|日本ヘリコバクター学会

ピロリ菌は適切に薬を服用することで、高い確率で除菌が可能です。ここでは、医師監修のもとピロリ菌の検査方法や除菌治療について、詳しく解説していきます。

ピロリ菌とは

ピロリ菌とは、正式には「ヘリコバクター・ピロリ」という胃粘膜の表面に存在している細菌のことです。

ピロリ菌は「経口感染(口からの感染)」であり、主な原因として井戸水の飲用や、ピロリ菌に感染している親の唾液からの感染が挙げられます。
まだ上下水道が整備されていなかった時代、衛生環境の悪い井戸水を飲むことでピロリ菌に感染した方が多かったため、現在でも年齢が高いほど感染率は高い状況です。

ピロリ菌は胃がんの最大の要因となります。国内のいくつかの研究では、胃がん患者の99%にピロリ菌が存在していたことも明らかになりました。

ピロリ菌に感染すると胃が炎症を起こし、「慢性胃炎(ピロリ菌感染胃炎)」につながることがあります。そして慢性胃炎が続くことにより、徐々に胃の粘膜は薄くなり「萎縮性胃炎」に移行します。このピロリ菌感染による萎縮性胃炎の一部はがん化することが分かっています。

胃に感染して悪影響を与えるピロリ菌は、除菌をするまで胃からいなくなることはありません。そのため胃炎が進行する前に、除菌の治療をすることが重要です。

ピロリ菌の検査方法

胃にピロリ菌がいるかどうかは、医療機関で検査をすることで分かります。ピロリ菌の検査方法にはいくつか種類がありますが、ここでは「内視鏡検査」「抗体検査」「尿素呼気試験」について解説していきます。

内視鏡検査(胃カメラ)

ピロリ菌の除菌治療を保険適用で行うためには、内視鏡検査で「慢性胃炎」と診断を受けることが必須条件となります。そのため、まずは内視鏡検査で、胃の状態を直接見て、胃炎があるかどうかをチェックします。

内視鏡検査で胃炎を確認したら、次はピロリ菌の確定診断を行う必要があります。内視鏡検査を行った際に、そのまま胃の組織の一部を採取して、それを検査に回すことで、ピロリ菌の有無が分かります。

抗体検査

抗体検査では、血液中のピロリ菌の抗体の量を調べることで、ピロリ菌の感染状況を調べることができます。現在ピロリ菌に感染しているかどうかだけでなく、過去にピロリ菌に感染していた場合も抗体検査では陽性と出ることがあるため、ピロリ菌除菌後の効果判定には不向きな検査となります。

医療機関によっては、健康診断や人間ドックのオプションとして、追加費用を支払うことで、ピロリ菌の抗体検査ができるところもあります。

尿素呼気試験

尿素呼気試験では、尿素入りの検査薬を飲み、一定時間後に吐き出された二酸化炭素を調べます。ピロリ菌がいる場合、検査薬の尿素が分解される時に特殊な二酸化炭素が発生するため、それによりピロリ菌の有無が確認できます。

尿素呼気試験は簡単に行えて、検査の精度も高いため、多くの医療機関でピロリ菌の有無を調べる際に用いられる検査方法です。またピロリ菌の除菌後の効果判定にも適しています。

ピロリ菌の除菌治療と費用

ピロリ菌は除菌するまで体内から消失しませんので、ピロリ菌の感染が確認されたあとは、必ず除菌治療を行う必要があります

除菌治療の方法

ピロリ菌の除菌治療では、主に以下の3種類の薬を、朝・夕食後に1週間内服します。

  • 胃酸の分泌を抑える薬:カリウムイオン競合型アシッドブロッカー または プロトンポンプ阻害薬
  • 抗生剤:アモキシシリン
  • 抗生剤:クラリスロマイシン

胃酸の分泌を抑える薬は、現在は主にカリウムイオン競合型アシドブロッカーが用いられています。一次除菌で90パーセント以上、二次除菌で99パーセント以上の除菌率です。

除菌治療をしたあとは除菌判定を行います。内服完了直後では薬の影響で「偽陰性」となる可能性がありますので、効果判定は除菌治療の4週間後以降に行います。

もし除菌が失敗していた場合は二次除菌に移りますが、その場合は一次除菌で内服した薬とは変更になる場合があります。

除菌治療の注意点

ピロリ菌の除菌治療では、まれに副作用があらわれることがあります。副作用は人それぞれ異なりますが、主に下痢や味覚障害を訴える患者さんが多いです。副作用が出た時は、速やかにかかりつけ医の診察を受けるようにしましょう。

ピロリ菌の除菌治療を行う際は、以下の点に注意が必要です。

  • 決められた回数の内服を行う(一般的には1日2回×7日間)
  • 喫煙しない
  • 飲酒しない

除菌率や薬の効果を低下させてしまう可能性があるため、ピロリ菌除菌の薬を服用している間は、できるだけ喫煙・飲酒は控えるようにしましょう。

またピロリ菌の除去をした後も、胃がんのリスクは残るため、定期的に内視鏡検査を行うことをおすすめします。

除菌治療の費用

2013年よりピロリ菌の除菌治療が保険適用となりました。しかしこれは、内視鏡検査で「慢性胃炎」と診断がおりた場合のみ保険適用となるので注意しましょう。

ピロリ菌除菌の治療費(3割負担の場合)
一次除菌:5,000〜6,000円

二次除菌:6,000〜7,000円

ピロリ菌感染による症状がない場合や、内視鏡検査を行っていない場合は、自費診療となります。また保健適用は二次除菌までとなるので、三次除菌以降も自費診療となります。自費診療の場合の費用負担は2万円程度です。

まとめ

ピロリ菌は、年齢が高くなるにつれて感染率が高く、除菌するまで胃の中に生存し続けます。ピロリ菌に感染したまま放置していると、次第に胃の粘膜に炎症を起こし、さまざまな症状があらわれることがあります。

適切な検査・治療を行うことで高い確率でピロリ菌の除去は可能ですので、気になる胃の症状がある時は早めに医療機関を受診するようにしましょう。