メディコレNEWS|【医師監修】知っておきたい麻酔の副作用について
監修医師:郷 正憲(徳島赤十字病院)
保有免許・資格は日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。主な著書は『看護師と研修医のための全身管理の本』。
治療の中で「麻酔をする」となった時に、麻酔の副作用が気になるという方もいらっしゃるかもしれません。麻酔というのは、数ある医療行為の中でも元々特に問題が無いはずの部分に侵襲を加える行為ですから、不安に思われるのも当然だといえるでしょう。
そもそも麻酔にはどのような種類があるのでしょうか。そして麻酔の副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。
そんな疑問を解決するため、今回は麻酔科医の郷 正憲先生に麻酔の副作用について詳しく教えていただきます。
麻酔の種類
麻酔の副作用と言っても、そもそも麻酔にはどのような種類があるのかというところから解説を始めましょう。大まかな分類で捉えて下さい。
局所麻酔
局所麻酔というのは、広い意味では局所麻酔薬を使用する麻酔全てを指しますが、狭義では処置をする場所その場所に局所麻酔薬を使用することを言います。
つまり、切開など何らかの痛みを伴う場所に局所麻酔をして、痛みをなくすることで処置ができるようにするものです。
神経ブロック
神経ブロックというのは、痛みを伝える神経の周りに局所麻酔薬を注射することで、神経を麻痺させてその場所よりも遠位の痛みを感じなくさせる処置です。
対象となる部位に応じて、様々な神経がブロックの対象となります。近年ではほとんどの場合、超音波で神経そのもの、もしくは神経がある場所を確認しながら針を刺入し、局所麻酔薬を注入します。
硬膜外麻酔
硬膜というのは、脊髄が包まれている膜です。脊髄から出てきた神経は、硬膜を貫通して外に出てきて、身体の様々な場所へと走行していきます。
そして、硬膜の外にはごくわずかですが空間が存在します。その空間に局所麻酔薬を投与することで神経を根元からブロックする事が可能になります。
硬膜外麻酔の場合、ほとんどの場合は感覚神経の中でも痛覚を伝える神経のみがブロックされます。
しかし薬の濃度を上げるにつれて触った感覚そのものをブロックしたり、さらに濃度を上げることで運動すらもブロックしたりすることができる様になります。
脊髄くも膜下麻酔
いわゆる下半身麻酔です。前述の硬膜の内側にまで針を刺入し、局所麻酔薬を注入します。
刺入する場所は腰の辺りです。脊髄は腰の辺りまでは伸びていないのに、硬膜は腰の辺りまで伸びているので、脊髄に針を当てることなく硬膜の内側に針を刺入することができるのです。
薬を入れると、腰の方からだんだんと上の方にまで薬が広がります。薬が広がったところまでの脊髄が麻痺し、感覚、運動ともに完全にブロックされます。薬の種類にもよりますが、大体90分ぐらいで効果が切れます。
全身麻酔
手術を行う際の全身麻酔はほとんどが人工呼吸を伴います。手術に伴う痛みを完全にブロックするために鎮静薬、鎮痛薬を十分に使うと呼吸が止まってしまうからです。
呼吸が止まってしまうことを代償するために人工呼吸のチューブを挿入し、人工呼吸を行います。
麻酔の副作用とは
このように、麻酔には様々な方法があります。では、実際にそれぞれの麻酔でどのような副作用があるのでしょうか。
局所麻酔
局所麻酔の場合、副作用はほとんどありません。
ただしごく稀に「局所麻酔薬中毒」というものが発生することがあります。
これは、一定量以上の局所麻酔薬を使用したり、局所麻酔薬を誤って血液中に注入してしまったりしたときに、脳に局所麻酔薬が大量に送られてしまい、脳の機能が落ちてしまうことがあります。少量であればぼーっとするような症状ぐらいですが、だんだんと意識レベルが落ちたり、心臓にも影響して不整脈が出たり、呼吸が止まってしまったりします。
また、時々アレルギー症状を起こす場合もあります。ただし、局所麻酔薬によるアレルギーは非常に稀です。
アレルギーが起こったとしてもほとんどの場合、局所麻酔薬を保存している容器の成分に対するアレルギー反応で、局所麻酔薬自体にアレルギーを示すことはほとんどありません。
神経ブロック
神経ブロックの際の副作用としては、前述の局所麻酔に対する副作用と同じように局所麻酔薬中毒やアレルギーが挙げられます。
神経ブロックでは局所麻酔薬を使用しますが、その量は局所麻酔薬よりかなり多いので、これらの副作用が起こりやすいと言えます。
更に、神経ブロック特有の副作用としては、神経損傷があります。神経の近くに針を届かせる予定が、誤って神経自体を損傷してしまう事があるのです。
それを防ぐために先端が鈍くなっている針を使用する様にはしていますが、完全には避けられません。超音波で神経を確認しながら針を入れていく方法でかなり避けられるようになり、ほとんど神経損傷は起こらなくなりましたが完全には避けられないと言うのが実情です。
硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔
硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔も、局所麻酔や神経ブロックとおなじような方法になりますから、それらと同じく局所麻酔薬中毒、アレルギー、神経損傷のリスクがあります。
それに加えて、脊髄の近くまで針を刺入することから種々のリスクが出てきます。
まずは血腫や膿瘍によって脊髄が圧迫されるリスクです。脊髄が圧迫されると、最悪の場合下半身麻痺が永続的に残ってしまいますから気をつけなければなりません。
通常ではまず起こらないのですが、血が止まりにくい場合には血液が硬膜の外でどんどんとたまって塊となってしまい、次第に脊髄を圧迫してしまいます。
病気で血が止まりにくい場合ももちろんですが、血をさらさらにする薬を内服している人も同様のリスクがありますから、実施前には薬の内服を中止するか、もしくは内服している場合は硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔を行わないという選択が行われます。
また、膿瘍ができることも麻痺の原因となります。膿瘍というのは膿の塊です。敗血症と言って全身に血液の流れに乗って細菌が流れているような場合にはどこで膿瘍ができるか分かりません。このような場合は脊髄の近くにまで針を刺入するとその場所で膿瘍を形成してしまう可能性があるため、穿刺は行いません。
他には、脊髄くも膜下麻酔を行った場合や、硬膜外麻酔を行う際に誤って硬膜を傷つけてしまった場合に起こってくる合併症として、「硬膜穿刺後頭痛」というものがあります。
これは、硬膜が傷ついた場所から、硬膜の中にある脳脊髄液という液が漏れ出してしまうことによって起こってきます。元々脳や脊髄は脳脊髄液の中に浮かんでいる様な状態なのですが、脳脊髄液がなくなることで全体に下に沈んできてしまいます。すると、脳が頭蓋骨に接してしまうようになってしまいますから、痛みを感じてしまいます。
座ったり立ったりしたときに頭痛を感じるようになりますから、しばらくの間安静に臥床する必要が出てきます。
全身麻酔
全身麻酔に伴う副作用としては、軽いものでは術後の嘔気嘔吐があります。特に若い女性で、喫煙をしていないひとに起こりやすいと言われています。
その他には重篤なものとして、呼吸器の問題や、血圧の重度の低下、アレルギー、悪性高熱症などが起こりえます。
まとめ
今回は麻酔科医の郷 正憲先生に「麻酔の副作用」について詳しく教えていただきました。
このように麻酔はさまざまな副作用を起こす可能性があり、「100%安全だ」と言い切れるものではありません。しかしできるだけ重篤な副作用が起こらないように、医師は患者さんの体の状態をよく見ながら適切な処置を行っていくので、過度に不安になる必要はありません。
麻酔の処置を行うにあたり不安な点などがあれば、事前に医師に相談するようにしましょう。