「患者さんの生命と生活の質を守る」 がん薬物療法専門医・指導医 川井治之ドクターの思い

認証マーク

2024.10.22

  • LINE
認証マーク

株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、岡山済生会総合病院の特任副院長、がん薬物療法センター長の川井治之先生にお話しを伺いました。

Profile
川井 治之
岡山大学医学部を卒業し、現在は岡山済生会総合病院で特任副院長、がん薬物療法センター長を務める。これまで1,000人以上の肺がん患者を診てきた中で、禁煙の重要性に気づき、禁煙啓発をライフワークにしている。病院勤務の他に、「禁煙センセイ」としてSNS上で禁煙啓発やアドバイスを行い、3万人以上のフォロワーを持つ。禁煙に関する学術論文や学会発表、一般向けの講演も多数行い、テレビ出演や新聞掲載も多数。

「進行肺がんを治癒可能な疾患に変える」川井先生のVISION

――本日はお時間いただきありがとうございます!先生が医師を目指したきっかけを教えてください。

川井先生 中学生の頃、自分の能力を最大限に生かし、同時に人の役に立てる職業は何かを真剣に考えていました。そんな中で、医師という道が浮かび上がりました。人々に感謝される仕事に就きたいという思いと、他者との競争ではなく自己研鑽を通じて成長できる職業への憧れが、医師を志す原動力となりました。日々の努力が知識と技術の向上につながり、それが直接患者さんの健康と幸せに貢献できる。この仕事の特性が、自分の性格と価値観に合致していると感じたのです。医師になるという決断は、こうした深い内省と将来への展望から生まれました。

――中学生にして社会貢献の観点から職業意識を持ったことは素晴らしいですね。現在の診療科に進んだきっかけはどういったものだったのでしょうか?

川井先生 私が現在の診療科を選んだきっかけは、個人的な経験と医学的興味の融合でした。私は小学校のころからアレルギー性鼻炎に悩まされていました。この経験がアレルギー学への関心を芽生えさせたのです。医学部を卒業後、アレルギーと呼吸器疾患に強みを持つ岡山大学第二内科に入局しました。しかし、研修を重ねるうちに、当時まだ難治性とされていた肺がんの抗がん剤治療と出会い、その複雑さと治療の困難さに心を動かされました。患者さんの苦しみを目の当たりにし、がん治療の最前線に立ちたいという強い思いが生まれたのです。これが、現在の専門である呼吸器内科、特にがん診療に携わるきっかけとなりました。

――ご自身の経験に基づいて入局した先で、肺がんの抗がん剤治療と出会ったのですね。普段はどのような働き方をしているのでしょうか?

川井先生 私は呼吸器内科医として、日々外来と入院患者の診療に従事しています。特に肺がん治療に力を入れており、複雑な症例にも積極的に取り組んでいます。 また、腫瘍内科医としての役割も担っており、がん薬物療法センター長として病院全体の抗がん剤治療の質向上に尽力しています。定期的な勉強会の開催やレジメン管理の徹底を通じて、エビデンスに基づいた標準治療の徹底と、安全性向上を図っています。現在は、免疫チェックポイント阻害剤の副作用対策の仕組み化に特に注力しており、多職種チームで取り組んでいます。最近も、そのおかげで早く副作用が発見でき、迅速に対応することができました。

――臨床や研究で大事にしていることは何でしょうか?

川井先生 私は最新の医学知識を常にアップデートしながら、エビデンスに基づいた標準治療を提供することを基本としています。同時に、患者さん一人ひとりの背景、生活様式、価値観を尊重した個別化医療を心がけています。 例えば、ある肺がん患者さんの治療では、効果的な治療レジメンを提案する一方で、遠方であり通院が大変であることを聞き、通院スケジュールを柔軟に調整しました。その結果、治療効果を維持しながら、患者さんのQOLも向上させることができました。 また、予防医学の観点から、禁煙外来にも力を入れています。喫煙者の方々に丁寧に説明し、一人でも多くの方が禁煙に成功するよう支援しています。

――先生が現在チャレンジしていることはありますか?

川井先生 現在、私が注目してチャレンジしているのは、医療現場の効率化と質の向上です。具体的には、院内の業務プロセスの仕組み化に取り組んでいます。例えば、電子カルテシステムの機能を最大限に活用するためにセット項目などの機能をフル活用できるように研究しています。 また、DX推進委員長として、大規模なデジタル化だけでなく、個人レベルでのDXも推進しています。ChatGPTなどの生成AIの医療応用に関する調査を行い、その成果をセミナーで院内スタッフに共有しています。 これらの取り組みにより、職員の負担軽減と時間創出を実現し、その時間を患者さんとのコミュニケーションや、より質の高い医療サービスの提供に充てることを目指しています。

――このDXの経験が元になって「新時代の病院マーケティング」という本も執筆されましたよね。先生の医療に対するビジョンを教えてください。

川井先生 私の臨床・研究のVISIONは、進行肺がんを治癒可能な疾患に変えることです。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の登場により、一部の患者さんでは長期生存が実現しています。例えば、7年前に担当した進行肺がんの患者さんが、免疫チェックポイント阻害剤により完全寛解に至った例があります。このような成果を踏まえ、既存薬剤の最適な組み合わせや投与スケジュールの研究を日々続けています。同時に、予防医学の観点から禁煙推進にも注力しています。長年続けてきた禁煙外来のデータ(2002年〜)を最近解析し、予後因子を検討した英語論文を発表しました。 究極的には、肺がんの根治と発症予防の両面から、患者さんの生命と生活の質を守ることを目指しています。

――ここまで読んだ読者の方にメッセージをお願いします。

川井先生 肺がん治療は日進月歩で進化しています。進行肺がんでも諦めずに、まずは標準治療を受けることをお勧めします。現代の治療は昔の苦しい抗がん剤治療とは全く異なり、普通の生活を送りながら長期生存を目指すことができます。 私が担当した患者さんの中には、診断時に予後不良と思われた方が、新しい治療法により5年以上元気に過ごされている例もあります。この経験から、希望を持って治療に臨むことの重要性を実感しています。 喫煙者の方々には、禁煙を強くお勧めします。肺がんだけでなく、COPDや心血管疾患など多くの病気のリスクを軽減できます。禁煙外来や禁煙補助薬を利用すれば、より効果的に禁煙できます。あなたの健康のために、今すぐ禁煙を検討してみてはいかがでしょうか。